(契約)

 

 

 

 さぁ今日から又新しい依頼人さんの所だわ。

 

絶対に秘密の守れる人って条件でなぜ、私が選ばれたのか不思議だけど、生活かかっているし、頑張らなきゃ

 

ね。家政婦の杉本しのぶは思った。

 

 

 

1011

 

「家政婦協会から来ました」

 

 聞いていた部屋番号を押し、モニターに向かって言った。

 

「はい、どうぞ上がってきてください」

 

 エレベーターで最上階まで行き、部屋番号を探して、しのぶはドアの前に立った。

 

 ドアを開けてくれたのは、最上階の広々とした部屋の中を、爽やかな風が通り抜けているというのに

 

1週間、いやそれ以上は洗っていないだろうと思われる、しわくちゃのハンカチで、汗を拭いながら

 

ハァハァした暑苦しい息使いをしている青年だった。

 

 内山君みたい…

 

 しのぶは、新しい人と出会った時はちゃんと記憶に残るように、インパクトのある人や物をリンクさせて、覚え

 

るようにしている。

 

 たまに本人の名前とリンクさせた人の名前がわからなくなるのが弱点だが。

 

「新しい家政婦さんですね?内田です。よろしくお願いします」

 

 あちゃ―最悪。 内田君に似た内山君…すでに、ごっちゃだわ。

 

「え―っと、お宅の会社で絶対に秘密守れる人って条件出して、来て貰ったんですけど」そう言って内田は

 

睨んでいるのか、笑っているのか分からない、垂れ下がった細い目で見た。

 

 しのぶは思わず笑ってしまった。

 

 その失礼な態度にも動揺せずに内田は言った。

 

「いくつか質問して、それで大丈夫だと思ったら、契約させて貰うと言う事でよろしいですか?」

 

「はい!口の堅さでは会社NO1です。自信あります!」

 

 他の人間の事など、知りもしないのに、自信満々でしのぶはそう言った。

 

「じゃあですね…まず聞いていると思うんですが、今回お願いするのは韓国の人気アイドルで、日本でも活動

 

している、東方神起の二人の、日本滞在期間中の身の回りのお世話です」

 

 東・方・神・起?

 

なんか聞いた事あるような、ないような。

 

TVなんか見る暇もなく、働き通しだからなぁ。人気アイドルって言われても。

 

 しのぶはそのアイドルの事は全く知らなかった。

 

「彼らは今日本でも凄い人気で、どこに住んでいるかとか、バレると大変な事になるんですよ。

 

ましてや、どんな生活している、なんて事が外に漏れることは、絶対に避けたいんです。

 

ですから・・・えーっとお名前は何でしたっけ?」

 

「杉本しのぶです。」

 

「しのぶさんは芸能人で好きな人いますか?」

 

「芸能人ですか?え―そうですね、子供のときはフィンガー5が好きでした。

 

その後は…清水健太郎ですかね。今は全然わかりません」

 

 フッ…内田は微かにバカにしたようでもあるが、ホッとしたような、安心した表情で

 

「ま、その点は大丈夫ということですね」と言った。

 

「次にですね、先日、他のアイドルが泊まったホテルの従業員が、ツイッターで情報を流したり、

 

使った備品をオークションで売るという事件があったんです。

 

しのぶさんはツイッターやネット関係はしますか?」

 

「携帯もパソコンもありませんので、やり方もわかりません。オークションも分かりませんし、質屋にも

 

行った事ありません。そんな事して、仕事無くすと困りますので」

 

続けて内田が質問した。 

 

「家政婦さんの基本ですが、お料理、家事全般は大丈夫ですよね?」

 

「はい、もちろんです。 それがお仕事ですから」

 

「今まで随分と、家政婦さんには裏切られていますんで、すみませんがここに念書書いて貰って

いいですか?もし、彼らのここでの生活が漏れたり、オークションに出品何ていう事があれば、

 

あなたを訴えさせていただきます」

 

「私はそんな暇な事をしている時間はないので、念書でも何でも書きますけど

 

もし、私以外の人間から漏れた場合、私の責任にされると、困ります」

 

「はい、そういう事はこちらでも、ちゃんと捜査してから訴えます」

 

 

 

「訴える事前提ですか?まぁ結構です。訴えられたって、お金ないですしね。

 

それ、ちゃんと頭に入れておいてくださいね!内山さん」

 

「内田です」

 

「あ、失礼しました…」

 

「ではこれで、契約成立ということで。しのぶさんは住み込みで良かったんですね?」

 

「はい、よろしくお願いいたします」

 

 と、返事をしながら、意外と簡単に成立したわ。 拍子抜けね。

 

 内心しのぶは、ホットした。

 

「彼らは明日ここに帰ってきますので、今日は部屋を掃除していただいて、明日は日本での撮影が終わって

 

ここで食事しますので、それを用意していただきます」

 

「食事はどのような料理を準備すればよろしいですか?」

 

「そうですね、明日はとりあえず、カレーでも。その内好きな料理を聞いて、作ってあげてください。

 

二人とも好き嫌いはあまりないと思いますが、チャンミンさんがびっくりするくらい、よく食べますから」

 

「はい、わかりました」

 

 大食いがチャンミンさんね。

 

 

 

 内田が帰り、掃除をし、自分の荷物を片付けたりしながら、さぁ、明日からはアイドルさんのお世話か。

 

きっと、我がままなんだろうなぁ。私にはここしか居場所がないし、頑張るしかないわね。

 

としのぶは一人つぶやいた。

 

 

 

 翌日

 

カレ―ねぇ。

 

本格カレ―でも作ってお待ちしよう。

 

辛さはどのくらいがいいのかしら。

 

初めはよく分からないから、普通でいいわよね。

 

 本格カレーがじっくりと煮込めた頃、玄関から声が聞こえた。

 

「家政婦さん!ただ今お二人が帰られましたよ」

 

「チョウン ペッケッスムニダ チョヌン しのぶ イムニダ チャル プタク トゥリムニダ

 

はじめまして。私はしのぶです。お願い致します」

 

 付け焼刃の韓国語で挨拶して、顔をあげると、そこにはバレーボール選手?と思うくらい背が高く、とてつも

 

なく顔の小さな青年二人が立っていた。

 

 二人はビックリした顔でしのぶの顔を見た。

 

「日本人のお手伝いさんだって聞いてたんですけど」 一人の青年が聞いた。

 

「はい、日本人です。友人に教えて貰いました。日本語お上手なんですね。よろしくお願いいたします。」

 

 一人の青年が「はじめまして。これからよろしくお願いします」と、丁寧に挨拶し、手を伸ばして握手までしてく

 

れた。

 

 手を伸ばして握手した青年は、後ろにいるもう一人の青年に向かって、

「またおばさんだったね。ま、仕方ないか。今度はまともな人だといいね」と、韓国語で言った。

 

「期待しない方がいいと思いますよ」と、後ろの青年は携帯でゲームをしながら答えた。

 

 今の彼がチャンミンさんかしら? もう一人の彼よりは少し太めだし。 しのぶは思った。

 

「ユンホといいます」 あ、違ったのね。ユンホさん。

 

 顔の小さい爽やかユンケル、ユンホさん。

 

で、ユンホさんの後ろに隠れて、なんだか機嫌の悪そうな顔してるのが、チャンミンさんね。

 

細い…細すぎる…彼が大食い??

 

「チャンミンです。お願いしたい事はこちらから伝えますので、それ以外はあまり余計な事はしないで下さい」

 

「はい、わかりました」

 

…やっぱり機嫌悪いのね。ま、いいわ。細くて大食いミンミン餃子のチャンミンさん。

 

「今日は内田さんにお聞きして、カレーにしました。出来上がっていますが、召し上がりますか?

 

それとも、お風呂になさいますか?」

 

「え?カレーですか?僕ら大好きなんです。すぐに食べます」

 

 

 

 二人は荷物を置いて、すぐにテーブルに着いた。

 

「うわぁーうまいなぁ!これ。なぁーチャンミン。美味しいよね」

 

ユンホは美味しそうに食べながら、陽気に言った。

 

「うん。でも、もうちょっと辛い方がいいな。」

 

チャンミンは冷静につぶやいた。

 

「チャンミンは、辛いのがとっても好きなんですよ」

 

 ユンホが楽しそうに、口からご飯を飛ばしながら言った。

 

「はい、わかりました。ではこれからは、チャンミンさん用には、もう少し辛いのを作らせていただきます。

 

とりあえず、今日はこれで」

 

…デスソース…しのぶはそっとテーブルに置いた。

 

 

 

「何かお好きな食べ物があれば、明日からはそちらをご用意させていただきますが」

 

「わぁーいいですねーじゃぁ韓国料理がいいなぁ、ねぇチャンミン」

 

「そうですね、いいと思いますね」

 

「かしこまりました。では、明日はどの様な事をやらせていただけば、よろしいでしょうか?」

 

「僕は朝5時に起こしてください」 不機嫌な顔のままチャンミンは言った。

 

「はい、ユンホさんは?」

 

「僕、明日はチャンミンとは別行動なので、ゆっくり寝ます。美味しいご飯をお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

 

ジリリリリリリ

 

 けたたましいベルの音が、小鳥たちのさえずりと共に、ようやく明け始めた空の下で響いている。

 

 ミンミンさん一応自分でも目覚ましかけたのね。

 

トントン  「チャンミンさん!5時です。お目覚めですか?」

 

しのぶはドアを控えめに叩いたが、中からは返事がなかった。

 

ダメだわ。寝てるわ。

 

トントントントン 「チャンミンさんチャンミンさん」

 

 今度は強めにドアを叩いた。

 

早く起きてくれないと、ユンケルさんまで起こしてしまうわ。

 

「入りますよーチャンミンさん。」 

 

 まさか裸で寝てないでしょうねー

 

起こしてくれっていうからにはパンツくらいは穿いててよー。

 

 不安を感じながら、しのぶはそーっと部屋に入った。

 

良かった、パジャマ着てる。

 

「チャンミンさん5時ですよ!起きてください!」

 

 爆睡だわ…疲れているのね〜。

 

 困ったわね、叩くわけにも蹴るわけにもいかないし、まさかチューして、ダーリン朝ですよ。ギューなんて

 

気持ちの悪い事するわけにはいかないし…殺されちゃいそうだし…

 

ま、無難に、しのぶはそっとチャンミンの肩を揺らしてみた。

 

「起きてください!」

 

「う〜〜〜〜ん」  ギョロ   チャンミンはしのぶを睨んだ。

 

「チャンミンさん5時ですよ」

 

 バタッ   あ!又寝た。今こっち見たのに。

 

「チャンミンさ―ん」   まったく! だから昨日、ユンケルさんが楽しそうに嬉しそうに、いたずらっ子みたいな

 

顔で笑ってたんだわ。

 

 寝起き悪すぎ。

 

 

 

「誰?」これ以上ないほどの、機嫌の悪い顔をして、ボソリとチャンミンはつぶやいた。

 

「起きましたか?家政婦のしのぶです。」

 

「あ―新しいおばさんね。」

 

 はい、確かに間違いなく問題なくおばさんですよ。

 

「チャンミンさん!5時を随分過ぎてしまいましたよ。しっかり起きてくださいよ!

 

朝食の用意が出来ていますからね。」

 

「うるさいな。ガミガミ言うなよ…起きれないと思って、ちょっと早い時間で頼んでるんだから。」

 

 チャンミンは怒った。

 

「そうですか?それは失礼しました。」

 

 仕方なく、しのぶは謝った。

 

「朝食出来てるって?こんなに早いのに?…やるね、おばさん…ありがとう」

 

 朝食という言葉に今頃反応して、チャンミンは言った。

 

 しのぶは「とんでもありません!チャンミンさん、それが私の仕事ですから」

 

と言いながらも、小さな声でありがとうだなんて、可愛いとこあるのね、と思った。

 

 

 

「こんなに朝早くからお仕事大変ですね。何のお仕事ですか?」

 

 機嫌良く、チャンミンに尋ねたしのぶだったが

 

「余計な事聞かない約束なんじゃないの!?」  

 

 チャンミンに冷たく睨まれた。

 

「あ、すみません。そうでしたね。申し訳ございません」

 

 さっきの言葉は撤回だわ。

 

やれやれ、なかなか手強いわね。ハート柄のパジャマの彼は。

 

誰かとお揃いかしら。

 

 

 

あ―良かった。ユンホさんは起きなかったようだわ。

 

昨日も夜遅かったし、疲れてらっしゃるだろうから…

 

それにしても、ミンミンさんを起こす役は、いつもユンケルさんがしてらしたのかしら?

 

あれは大変だわ…。

 

明日からの苦労を思い、何か作戦たてなきゃね!としのぶは考えた。

 

 

 

「家政婦さん!これ美味いです!」

 

 チャンミンはそれだけ静かに言って、黙々と食べていた。

 

 ほんとに美味しそうにパクパク召し上がるのね―チャンミンさん。

 

朝早くから起きて作った甲斐があったわ。

 

 それにしてもよく召し上がる・・・予想外だわ。

 

ユンケルさんの分、もう一度作らなきゃ…

 

 

 

「家政婦さん、今日、監督とご飯食べに行くんですけど、こんな感じの料理作っておいて下さい。

 

帰ってから食べますから」

 

「はい、チャンミンさん。かしこまりました」

 

気に入ってくださったのね。 としのぶは嬉しかった。

 

 

 

「おはよ―チャンミン。え―っと、お手伝いさんのお名前は何でしたっけ?」

 

「おはようございます、ユンホさん。 私はしのぶです」

 

「しのぶさん、チャンミン起こすの大変だったでしょ?アーハッハッハ。僕もいつも苦労してたんですよ〜

 

あ―今日は助かった!」

 

「ヒョンは寝相最悪じゃないですか!?

 

家政婦さんもヒョンの寝相見たらびっくりしますよ」 恥ずかしい所を指摘されて、言い返すように、チャンミンは

 

必死に言った。

 

「チャンミン、家政婦さんじゃなくて、しのぶさんだろ」

 

「はい、…しのぶさん、じゃあ今日の夕食お願いします」

 

 チャンミンはそう答えて、機嫌の悪そうなまま、部屋に消えた。

 

 

 

「ユンホさん大変申し訳ないのですが、少しお待ちいただけますか?

 

予想外にチャンミンさんがたくさん召し上がられて」

 

「ハッハッハ  予想外でしたか?凄いでしょ。チャンミンの食欲は。いいですよ。急ぎませんから。

 

先にシャワー浴びてきます」

 

 まぁなんて、良い人。急いで作らなきゃ!

 

 

 

「ヒョン!行ってきます!内田さんが下で待ってるって」

 

「はい、チャンミンさん、気をつけていってらっしゃいませ、遅くなってもお料理作ってお待ちしております」

 

 しのぶは、自分には挨拶はなかったが強引に返事をした。

「チャンミン、頑張れよ!」 ユンホがバスルームから叫んだ。

 

 いやだ、ユンホさん、バスルームからそんなに乗り出したら、見えてしまいますわ…

 

 

 

「ユンホさん、お待たせして、すみませんでした。ごゆっくり召し上がって下さいね」

 

「しのぶさんは食べたんですか?」

 

「いえ、まだですけど、ユンホさんがお仕事に行かれてから、頂きます」

 

「じゃぁ一緒に食べましょうよ。一人で食べても美味しくないし」

 

「いえ、そんな滅相もない。そんな事をしたら首になります」

 

「だって、僕が食べましょうって言ったんだから、いいじゃないですか」

 

「わかりました。ではここに座らせていただいて、ユンホさんが食べるのを見ています」

 

「ハッハッハ  しのぶさんも頑固ですね。  僕たちと同じだ」

 

「フフフ・・・お二人も頑固なんですか?」

 

 

 

「わぁーこれ美味い!   これなら、チャンミン全部食べちゃうな〜」

 

「ありがとうございます。夕食も、このようなのを作っておくように、チャンミンさんから言われました。

 

ユンホさんもそれでよろしいですか?違うのがよければお作りしますが」

 

「こんなのも好きだけど、しのぶさんサムゲタン作れますか?

 

最近ちょっとハードで、チャンミンも疲れ気味だから、元気の出るサムゲタンが食べたいけど」

 

「かしこまりました。時間もたっぷりありますし、良い鳥を仕入れて煮込みます」

 

 

 

「あ―美味い!料理上手ですね―  そういえば、しのぶさんは家に帰らなくていいんですか?」

 

「ユンホさん…そういうことはお互いに、内緒と言う事でお願いいたします」

 

「あ、すみません」   ユンホは素直に謝った。

 

「いえ、ユンホさんこちらこそ。偉そうにすみません。さっきの話ですけど、お二人も頑固なんですか?」

 

「はい、二人とも頑固ですよーこう!って決めたら絶対に譲りませんよ」

 

「そうなんですか。でもどんな世界でも、成功する人はそれくらいでないとダメですよね」

 

「まだ、僕たちは成功なんてしていませんよ。これからです」ユンホは美味しそうにモグモグと食べながら言った

 

「でも、内山さんが…あ、違った、内田さんがお二人は韓国でも日本でも、とっても人気があるって、おっしゃって

 

ましたよ。すみません、私は芸能界にうとくて」

 

「う・と・く・て?  それはどういう意味ですか?」

 

「あら、ごめんなさい。日本語があまりにお上手で、普通に話してました。

 

うとくてというのは…簡単に言うと…知らなくて、とか苦手で、とかいう意味です。

 

ご飯のお替わりはいかがですか?」

 

「ご飯はやめておきます。僕はすぐに太るんですよ…チャンミンはあんなに食べても全然太らないのに」

 

 

 

「ユンホさん、あの、さっきチャンミンさんが ヒョンっておっしゃってましたけど、あれはどういう意味ですか?」

 

「男性が年上の男性を呼ぶ時は“ヒョン”って言うんですよ。 兄貴みたいな感じですかね。

 

女の子からお兄さんは“オッパ”で、お父さんは“アボジ”でお母さんは“オモニ”で、妹は“ヨドンセン”弟は“ナン

 

ドンセン“おばさんは”アジュモニ“……」

 

たてつづけにユンホは言った。

 

「あ―ユンホさん、ユンホさん、ありがとうございます。そんなにいっぺんに教えていただいても

 

全く覚えられません。脳みそ一杯一杯です」

 

「ア―ハッハッハ すみません。 そうですよね。 またいつでも教えますよ」

 

「まぁありがとうございます。ユンホさん。 覚えられるように頑張ります」

 

 

 

「あ―美味しかった。しのぶさん、ごちそうさまでした。 僕もそろそろ用意しなきゃ」

 

「今日は別々のお仕事なんですね。グループですよね?なのに違うんですか?」

 

「チャンミンは映画の仕事が入ったんですよ。僕は今日は雑誌のインタビューです」

 

「ごめんなさい。ユンホさん。また詳しく聞いてしまいました。さっきチャンミンさんにも怒られたのに」

 

「いえ、大丈夫です。しのぶさんを信用していますから。それにチャンミンも凄く人見知りだけど

 

もう晩御飯の事お願いするくらいだから、きっとしのぶさんの事気に入ったんですよ」

 

 

 

「ユンホさん、そんなに早く人を信用してはいけませんわ。まだ私とは昨日会ったばかりなのに。

 

世の中には悪い人が一杯いるんですよ。私なんか騙されてばっかりです」

 

「アッハッハッハ・・・しのぶさん。そうなんですか?騙されたんですか?」

 

「はい、そうです。酷い目に合いました。 だからね、ユンホさんそんなにすぐに信用しちゃダメですよ」

 

「わかりました。しのぶさん。  じゃぁしのぶさんも僕を騙すんですか?」

 

「そうですよ!それはわかりませんよ!」

 

「え〜〜〜それダメじゃないですか」

 

「あ!ほんとだ。首になっちゃいますね、嘘です、嘘です、騙したりしませんから!

 

ユンホさん、首にしないで下さいね!」

 

「アッ八ッハッハ  大丈夫ですよ。しのぶさん。そんなにすぐに首にしたりしませんよ」

 

 楽しい人だなぁ―今までの人よりはましみたいだ。  とユンホは思った。

 

「じゃぁ僕も行ってきます!晩御飯楽しみにしていますから」

 

「はい、ユンホさん  気をつけていってらっしゃいませ」

 

 

 

 しのぶは二人が楽しみにしていると言ってくれた、夕食の買い物に来ていた。

 

さぁーいい鳥もあったし、年代物の朝鮮人参もあったし、これでお二人に元気付けて貰わないとね。

 

ザァー   突然降り出した雨に驚きながらも、大量の買い物袋が重く、走れないしのぶだった。

 

あ―びしょ濡れだわ。お二人は大丈夫かしら?

 

スタッフさんもたくさんいるんだから、そんな事は心配しなくても大丈夫よね。 

 

何だか、すっかり母親気分だわ。  男前の息子が急に二人も増えて、嬉しいばかりね。

 

アイドルなんか我がままだ!って決め付けて申し訳なかったわ。

 

ユンホさんなんて、とっても素直で優しくて。

 

チャンミンさんはバリア張っちゃってるけど。

 

しのぶは何となくウキウキした気分で、濡れた身体を乾かし、料理の仕度にかかった。

 

 

 

 さぁ出来た。 これで、お二人がいつ帰って来られても大丈夫だわ。

 

私は先に食べておいたほうがいいわね。ユンホさんがまた心配して、一緒に食べましょうなんて

 

嬉しい事言わせてしまうから。

 

 しのぶは、知らない間にニヤニヤしていた。

 

 

 

 遅いわね〜。チャンミンさんは監督とお食事で、遅くなるっておっしゃってたけど、ユンホさんはどうしたの

 

かしら?

 

 あら、この部屋電話がないわ。 盗聴でもされるといけないからかしら?

 

でも盗聴って電話だけじゃなくて、コンセントとかにも付けられるって、何かで言ってたけど…

 

私の携帯がないから、ちょっと不便だわ。

 

 

 

 玄関の方で音がした。

 

 あ、帰って来られた。

 

「おかえりなさいませ」

 

 

 

 バタッ!!  ドン!!  しのぶは大きな音に驚いた。

 

 え?何?どうしたの?これはチャンミンさん?

 

 しのぶが目にしたのは、ずぶ濡れで玄関に倒れるチャンミンの姿だった。