(輝く2つ星)
 地方のコンサート会場から駆けつけた二人は、たくさんの機器につながれ、苦しげに呼吸する
しのぶに駆け寄った。
「しのぶさん!しのぶさん!いやだ!いやだよ!!しのぶさん!」
二人は取り合うようにしのぶの手を取り
「どうしてなんだよ!!この前出かける時はこんなに酷くなかったじゃないか」と叫んだ
「ごめんなさい、ごめんなさい、ユンホさんチャンミンさん。私が側にいながら。しのぶさん、ほんとは
すぐに入院するように言われていたんです。でも、お二人が今大変な時だからって、無理して。
最近では家でもずっと寝てらして…しずかも泣きじゃくる。
お二人が帰っていらしたら、シャンとして…起き上がって…ニコニコ笑って、お帰りなさいませって
言って」 しずかはそれ以上涙で話せなかった。
「しのぶさん、どうしてなんだよ、そんな無理して!そんな事したって、僕ら嬉しくなんかないのに。
ちゃんと治して元気になってくれた方がどんなに良かったか」  ユンホが言った。
「手遅れだって、お医者様から言われて。だから…残された時間は全部お二人の為に使いたい!
こんなに幸せをもらったお礼がしたいって…ウウ…今死んでも、笑って死ねるって。
ずっと、ずっと辛くて…悲しい毎日だったのに、お二人と出会えて、本当に幸せだったって!」
ウウウウ…
「しのぶさん!ダメだ!死ぬなんて許さない!!絶対に!絶対に許さないから!!」
 チャンミンはしのぶの身体にすがり付いた。
 機械の音だけが規則正しく部屋に響いていた。
誰も何も話さず、誰も何も言えずに、ずっとしのぶの苦しそうな顔を見ていた。
皆がまんじりともせず、時間だけが過ぎ、静寂の中に小鳥のさえずりが聞こえ始めた。
「ひとやま超えましたね」  医師はしのぶの身体を調べそう言った。
「先生!!ありがとうございます!」 みんながそれぞれに言った。
「いえ…本人の生きたいという気持ちと、周りの方の想いが通じたのでしょう。
しかし、予断は許しませんよ。治ったわけではありません。ひとまずは落ち着いたと言う程度です」
「あーとりあえずは良かった。ユンホさんチャンミンさん、時間です、行かないと。」内田が言った。
「…ぼく  行けない……」      チャンミンがつぶやいた
「行けるわけないじゃない!しのぶさんこのまま死んじゃうかもしれないのに、どうして行けるんだよ」
「 …………チャンミンさん…………」小さなしのぶの声だった。
「しのぶさん!気が付いたの!?」チャンミンはしのぶにすがりついたまま、叫んだ。
「ダメですよ。ちゃんとお仕事行かなきゃ…」
「いやだ!しのぶさんの側にいる」
「大丈夫…チャンミンさんが帰ってくるのを美味しいご飯作って待ってますから。心配しないで。
ファンの皆さんの為に素敵なステージ見せてあげてください」
 チャンミンは泣いて、しのぶから離れない。
 しのぶはチャンミンの頭を撫でた。
「チャンミンさん…笑って。チャンミンさんが泣いたら私まで悲しくなってしまいます。
女の子のように恥ずかしそうな、あのチャンミンさんの笑顔が見たいです。
ね、ほら、チャンミンさん…お願い…こっち見て・・」
 しのぶにすがりついて離れないチャンミンの肩を持ちゆっくりと言った。
「しのぶさん…」
「ほら、良い子ね。よしよし、もう泣かないで。いつまでも泣いてると、泣く子はどこだぁーって鬼がき
ますよ。」 優しくチャンミンの髪を撫でた。
「ハハ…また子ども扱いする…」
チャンミンは少し恥ずかしそうに小さく笑った。
あー可愛い笑顔。 しのぶはチャンミンの涙を指でぬぐった
「たくさんの皆さんが、お二人に会えるのを楽しみに待っていますよ。ほら、行ってください。大丈夫
ちゃんと、待ってますから」
「チャンミンさん!!」  
内田がめずらしく真剣な顔で言った。
「チャンミンさん!!僕だってほんとはここから離れたくないんです!」
内田はそう言い出すと、しのぶと出会ってからの事が想い浮かんだ。
 しのぶさんはお二人だけにじゃなくて、僕にもずっと優しかった。お昼のご飯急に食べに行っても
すぐにたくさん作ってくれて、二人で一緒に食べて…もっと召し上がれってニコニコ笑って。
 お弁当だって、作ってくれた…すごく懐かしい卵焼きの味がして…
 時々ふんわりと、何かを思い出すようなそんな香りがしのぶさんからして、とっても居心地が良
かったんだ。 僕だってずっと心配で、ずっと気になって。でも、しのぶさんの側にはいつもお二人が
いるし、しずかだって懐いて離れないし。だから、僕はしのぶさんが喜んでくれると思って、バクバク
食べるしかなかったんだ。  
 そんな想いを胸に内田は続けて、チャンミンに言った。
「でも、あなたにはあなたを待ってる何万人のファンがいるんですよ!ほら!しゃんとして!
頑張ってください!」
 たくや…たくや…ありがとう。たくや…こんなに大きくなって…こんなに可愛いお嫁さんもらって。
知らなかったとはいえ、たくやと一緒にご飯食べて、お弁当も作ってあげられた。美味しい美味しい
と、たくさん食べてくれたわね。小さい時にしてあげられなかった事、ずっとしてあげたかった事が
出来て、ママ幸せです。   
たくや、ごめんね。 2度もあなたを置いて行く事になるから…………
名乗らないママを許してね。 しずかさんと仲良くね。
ユンホも泣いていたが、チャンミンを抱きかかえて言った。
「しのぶさん!今度はちゃんと待っててくださいよ!今度は絶対に約束破らないで下さいね、指きり
ですよ」
「はい、ユンホさんわかりました。 今度は絶対に守ります」
しのぶは管でつながれた指を差し出した。
ありがとう…ユンホさん…優しいユンホさん、ほんとにほんとにありがとう。テオさんの事はもう私に
任せて、ユンホさんは新しい恋みつけてくださいね。
「さぁチャンミン行くよ!」
「しのぶさん絶対に待っててよ、絶対だからね」
チャンミンは泣きながら、部屋を後にした。
しのぶは安心したようにまた眠りに落ちた。
それから、何日かが過ぎ、二人のコンサートはどの会場も大成功だった。
しのぶの症状も少し安定し、起き上がれるくらいまでには 元気になった。
コンサートのハードなスケジュールの合間をぬって、チャンミンはしのぶの側に来た。
「しのぶさん、大丈夫?寒くない?」
汗ばむ身体には心地良い風が吹いている。
車椅子に乗るしのぶと、それを押すチャンミンは、病院の屋上で満天の夜空を見上げていた。
「きれいな星ですね。ユンホさんとテオさんが見て頑張っていた星って、どれなんでしょう?」
しのぶが聞いた。
「そうですね、ヒョンの事だからきっと、その時に目に付いた一番光ってる星を見ていたと思います
ね」
「まぁ!フフフ…そんな大雑把な!でも、それとってもユンホさんらしいわ」
しのぶは久しぶりにお腹を抱えて笑った。
「でしょ!?でも、きっとそうですよ。だって一番光っていたから!  とか言うに決まってますよ」    
しのぶの、楽しそうに笑う姿を見て、チャンミンも笑った。
「私はあの星にします。あの、二つの輝く星の下で小さく光っている…あの星…」
「どれですか?」
「ほら、あれ…」 
しのぶが指さす方を見て、チャンミンは言った。
「う〜〜ん、なんだろうな…あの星は…調べておきますよ」
「いいえ、きっと名もない星ですよ。でもキラキラ輝くあの2つの星は、ユンホ星とチャンミン星ですね。
あの名もない星はずっと側で2つの星を見ていられるんですよ。だから、私はあの星」
「しのぶさん、ずっと側にいてください。…星になんかならないで…」
また、泣きそうになるチャンミンの言葉を遮るように
「チャンミンさん! 私最近すごく調子がいいんですよ。なんだか、治ったんじゃないか?って、思うく
らいなんです」
「ほんとですか?しのぶさん」
チャンミンの表情がパッと明るくなった。
「ええ、ほんとです。 だからお二人のコンサートにもきっと行けると思うんです」
「絶対ですよ!しのぶさん 来てくださいね」
チャンミンは車椅子の前に回り、しのぶの手を握りしめた。
「はい、楽しみです」
東京ドーム…最終日…
しのぶは渋る医師の許可を強引に取り、二人のコンサートを観に来ていた。
「チャンミン…しのぶさんちょっと元気になって、観にこれて良かったね。
最高のステージ観てもらわなきゃな!いくじぇー!!」
二人のテンションは最高潮に上がっていた。
「しのぶさん…私ドキドキします。凄いですね、こんなにたくさんの方がお二人の事を観に来られて
るんですね」
「ほんとにね…やっぱりお二人は輝くあの星だわ…」
「しずかさん…こんな時に変だけど…たくや、いえ内田さんと仲良くね。
もし、もし、よ。もしコンサートの途中で私倒れちゃっても、お願いだから、最後までそのままにしてお
いて欲しいの。全部終わるまで、お二人の邪魔はしたくないのよ。だからお願いよ、たとえ、死んでし
まっても、そのままで…」
「しのぶさん!嫌です!!そんな事言わないで下さい。
大丈夫ですよ!今日はちゃんと先生のOK出るくらい調子良いじゃないですか。最後まで観れます
よ。アンコールだって、みんなと一緒に叫ばなきゃ! 周りの皆さんに怒られちゃいますよ」
「そうね。一緒に叫ばなきゃね。  フフフ…わかった。頑張るわ」
しずかさん。  ありがとうね。   たくやをお願いね。  しのぶはそっと囁いた。
キャー  大歓声が沸き起こり、東方神起のステージは始まった。
コンサートというのを一度も観た事がなく、二人の曲もCDから流れてくるのを、聴いていただけだっ
たしのぶは衝撃を受けた。
踊ってるわ。すごい。
後ろの方たちと同じように踊ってる。
その上に歌も…息切れしないのかしら…
これだけ激しく動くんだから、あんなに食べても太らないのわかるわ。
素敵だわ。素敵です…お二人共。 皆さんがキャーキャー言われるのがわかります。
私の隣の子は小学生くらいね。お母さんと一緒に。
キャーキャー言って、うちわ振ってる…可愛いわね〜。チャンミンさんの写真だわ。
フフフ…あのね…お譲ちゃん…チャンミンさん、本当は甘えん坊なのよ。
なんて知ったらビックリするでしょうね…フフフ
衣装もどれもカッコ良くて。
ドクン!!!!     しのぶの心臓が突然悲鳴をあげた…
あー神様 もう少し…お願いです…最後の最後にもう少しだけ時間をください。
…ハァハァハァ  しのぶは肩で息をした
何か話してる…歌だけじゃなくて、お話もするのね。
この事だったのね…お二人が楽しそうに話てたのは…
あ、ほんとだ。ユンホさんの事無視した…フフフお可哀想なユンホさん。
チャンミンさんたら、客席に向かって うるさい!とか叫んでるわ…大丈夫なのかしら?
でも、皆さんは嬉しそうにキャーキャー言ってるけど…
ドクン!ドクン!   なおも悲鳴は激しくなった。
会場では、二人がゴンドラに乗り、ボールをスタンド席に投げながら、回っていた
チャンミンさんが回ってきた…しっかりしなきゃ…しっかり…ハァハァハァ
ボール取ってよ。しのぶさん。ほら…
チャンミンは優しくしのぶに届くようにボールを下からポーンと投げた。
周りのファンが必死で手を伸ばしている。
しのぶはニコニコと楽しそうに見ていただけだったが、誰かがはじいたボールが偶然にもしのぶの
手の中にスポリと入った。
まぁーボールが…
隣の女の子がうらやましそうな目でじっと見ている。
「どうぞ…」
「え??いいの??おばさんいらないの??ほんとにボール貰っていいの?」
「どうぞ。おばちゃんね、もっと良いものいっぱい貰ったからね。ボールはお譲ちゃんにあげる」
「わ―い、ありがとう!!」 女の子は嬉しそうに飛び跳ねた。横で母親も何かお礼を言っていた。
ドクドクドクドク…    もう限界だった。
とってもきれい…
たくさんの赤い星の中でキラキラ輝く2つの星
なんて素敵なのかしら…
……チャンミンさん……
子ども扱いして、ごめんなさい……
息子なんかじゃなく、あなたを愛していました。
最後の恋をありがとう……幸せでした…
チャンミンさん、ユンホさんとお二人でいつまでも輝き続けてください。
ずっと側で見ています。あなた方が輝く姿を…
あー   き れ い
おばさん、ペンライトが落ちたよ…
おばさん、おばさん!?
ね―ママ―おばさん寝ちゃったのかな〜
りかちゃん!いいから!ほら!チャンミンがこっち見てるよ!ほら!ほら!
半年後
ジリリリリリ…
ウオーーーーー!!!   さぁ、今日も頑張るぞ!
……しのぶさん…ようやく僕も一人で起きれるようになりましたよ…。
”活きの良い”か…  ほんとに面白い人だったな。
しのぶさん、ずっと側で見ててくださいね。
僕たち輝き続けるから。
オモニなんかじゃなく、あなたを愛していました。
最初の恋をありがとう…
                                    おわり
ジリリリリ…
ジリリリリ…
ジリリリリ…
母ちゃん
ジリリリリ…
母ちゃん!
ジリリリリ…
母ちゃん!!!  6時に起して ゆーたやろ! もう7時やんか!!!
ギャァ―――――――――――――  堪忍!!! うわ―――寝坊した――――――――
たくや!ごめん!!!!
母ちゃん…朝練 遅刻やんか!!
うわ〜〜〜堪忍やで!!
母ちゃん ごっつ え―夢みててん。
チャンミンがな、母ちゃんの事好きや言うてな。
も―え―から!はよ、ご飯して―な。
ほんでな、たくや  きぃ―て―なぁ―。
チャンミンがな、キスしてもいい?って言うねんで。
母ちゃん  ダメよ…言うてな。
うわぁ〜〜〜〜えらいことしたわ〜〜〜
ブチュ―としときゃ良かったわ〜
惜しい事したわぁ
母ちゃん!朝から何アホな事言うてんねん!
頭おかしなったんとちゃうか??
も―行くで!!
堪忍やで。たくや。 パンでもこ―て。
堪忍な。  チャンミンが離さんかったんや― 母ちゃんの事をな。
あ―惜しい事した。
アホらし…行ってくるわ。
                                   ホンとに終わり