「君がシンの周りでウロウロすると、シンの未来に傷がつくんだよ。
だからね、わかるだろ?これ、少ないけど…」
そっとテーブルに置かれた封筒には札束が入っていた。
「こんなの要りません!」 そう叫ぶとテオは、芸能事務所を後にした。
「あんたがテオ? 派手に着飾った女が3人テオの行く手を塞いだ。
「はい、そうです…」
「あんたね―ふざけんじゃないよ!シンは私らのもんなんだよ!幼馴染か何か知らないけど、出しゃばってんじゃないよ!」
「出しゃばってなんか…」
「うるさい!だまりな! ちょっと、後頼んだよ!」後ろで控えていた男達を呼んだ。
恐怖で足がもつれたが、テオは必死で逃げた。
しかし、男たちの足に敵うはずもなく…
やめて――――――
テオは海にいた。
どこから、どうやって来たのか分からない。
無意識の内に、シンとの思い出の場所に辿りついていた。
「ただ、シンに会いたかっただけなのに。シンのそばに行きたかっただけ なのに。 どうして、ダメなの? 会いたかっただけなのに」
空を見上げると、二人で一緒に見た星が輝いていた。
「シン! シン! 会いに来てくれたの?会いたかった。ずっとずっと会いたかった」 テオには星がシンに見えた。
シン…テオは立ち上がり、ゆっくりとシンの方に歩き出した。
寄せてはかえす波に向かって、テオはゆっくりと進んでいく。
「シン…待って! 行かないで! 私を置いていかないで! 私を一人にしないで! シン!」
テオは星に向かって手を広げ、そこにいるはずのない、シンを抱きしめようとした。 空を舞い、バランスを崩したテオを穏やかだったはずの波が、急に姿を変え、荒々しくテオを飲み込んでしまった。
日本にいるシンの元に、連絡があったのは、それから1週間程過ぎた頃だった。 テオと連絡が取れない事を心配しながらも、シンは日本での忙しいスケジュールに追われていた。
韓国の事務所から、マネージャーに連絡が入り、マネージャーは伝えるべきかどうか悩んでいた。
「伝えても、シンが傷つくだけだし…どうすりゃいい?でも、いずれは分かる事だ…」
思い悩んでいたマネージャーだったが、やはりここは覚悟を決めて…と考え、二人を呼んだ。
「シン、落ち着いて、聞いて欲しいんだ。悲しくて辛い知らせだが、おまえなら、きっと乗り越えてくれると、信じている」
二人は驚いて、顔を見合わせた。
「何ですか?どうしたんですか?両親に何か?」シンは尋ねた。
「…………テオさんが亡くなった」
モモはとっさにギュッとシンの手を握った。
「何ですって?テオがどうしたんですか?」
「1週間程前に海で亡くなったそうだ」
「嘘だ!そんなこと、嘘だ!!」 立ち上がり、部屋に入りテオの携帯を鳴らす。
「もしもし…」テオではない誰かだ。
「テオ?僕だよ。シンだよ」違うと分かってもそう言った。
「あなたのせいで、テオは死んだのよ!! テオを返して!!」そう叫んで、電話は切れた。
モモは部屋に入ってきて、心配そうに様子を見ていた。
僕のせいで…?テオが死んだ?……テオが死んだ?
ウオ―――――――
シンはいつまでも、二人で見つめた輝く星に向かって、叫びつづけた。