メルルのアトリエ アーランドの妹錬金術士
旅立ちA




「ルーフェスさんから聞いていたけど、本当にアーランドに行くなんて・・・」

 お姉ちゃんが私の旅の支度を手伝ってくれている。
 ジオ様やルーフェスお兄ちゃんと分かれた後、家に戻ると既に話を通してあったお姉ちゃんに改めて説明したのだ。
 ちなみに、両親はすごく可愛がってくれるけど、やりたいことはやらせるといった感じなので反対されることもなく、応援してくれている。

「ごめんね。お姉ちゃん」
「あら、私はナナがやりたいことを否定する気はないのよ。ルーフェスさんの話だとナナ自身だけでなく、国の発展につながることみたいだし」

 ルーフェスさんからは、アーランドに留学する旨が伝わっている。

 そうそう、この世界って機械があるけど、ほとんど遺跡化している。
 それを掘り起こして生活の中で使用しているんだけど、ほとんど人が機械を理解していない。
 なんとなくて使用しているだけみたいなんだよね。だからそれが何のために使うものなのか、機械内部の仕組みも分からないことだらけみたいだ。
 元日本人だけに見たらなんとなく感覚で使用用途とか分かるんじゃないかと思ったりもするけど、私自身あまり期待していない。
 分かればラッキーと思う程度だろう
 教えられると発展につなげられるかもしれないけど、アールズにはほとんど機械が無いから、まずはアーランドに行かないとわからないしね。

 ルーフェスさんには留学する際に何かを学んで来いなんてことは言われていない。
 アールズと違って都会過ぎるのだ。何を報告しても新しいことばかりだしね。

「そうだ。ナナ、ちょっとルーフェスさんのところにお使いに行ってくれないかしら」
「ルーフェスお兄ちゃんのところ?」
「えぇ、私が一週間前に頼んだものって言えば、伝わるから」
「はーい」

 朝行って既にお昼3時過ぎだから、ジオ様はいないよね。ルーフェスお兄ちゃんは、執務に戻っているはずだ。

 執務室の扉をノックすると案の定、ルーフェスお兄ちゃんはお仕事中だった。
「こんにちは、ルーフェスお兄ちゃん」
「こんにちは、先ほどぶりですね」

 筆を置き、快く歓迎される。

「そうそう、これをこの前買ったのですが」

 そういって、日本語の本が置いてある棚から一冊を持ってきた。

「とてもきれいな絵ですが、日常的にあるものなのですか?」
 覗くまでもなく、目につく煌びやかな写真。普通の雑誌みたいね。

「そうですね。日本というか、日本があった世界は機械による反映をしています。この前アールズに来た写真屋さんあったじゃないですか。あれがすごく高性能になるとその本に載っているような写真が作り出せるんですよ。それに紙の作成技術は発達していますし、印刷といって紙などに描かれた文字や絵、写真を他の紙に同じものを再現する技術がありましたので」
「ほほぅ、それはすごいですね。アーランドの機械もこれくらいできるようになるのでしょうか」
「できると思いますよ。ただし、、、」

 私は雑誌をパラパラとめくってみる。普通のファッション雑誌だ。時代は新しくも古くもなく、私が転生した頃のような気がする。

「機械の発達は自然を破壊しますよ」
「機械を?」
「えぇ、別に機械を作るな、使うなっていってるわけではないんですけどね。私がいた頃の日本は、周りの木々は少なく、夜は機械から出る煙で星は見えない。電灯はそこらじゅうにあって、首都では眠らない町ともいうくらいに夜でも明るかったんですよ」
「眠らない町・・・」
「まぁ、機械についてもっと知る人が多くならない限りそこまでならないと思いますが、人間は欲深い生き物ですからね。どうしても楽しようとしてしまいますし」
「たしかに、そうですね。古代の機械を使っていた時代が滅びたのもその言ったんだったのかもしれませんね」

 ルーフェスお兄ちゃんには特に兵器の話はしたことがなく、この世界の国程度だったら爆弾一つで滅ぼせることも知らない。でも機械の利便性について、メリットとデメリットを正しく認識できるのではないかと思う。

 私の雑誌をめくる音が響くだけで、あたりに沈黙が漂う。
 まぁ、ルーフェスお兄ちゃんはすごくしゃべる人ではないため、よくあることだけど、この雰囲気は嫌いじゃない。

「そういえば、何か私に用事があったのではないのですか?」

 そう言われて、当初の目的を忘れていたのを思い出した。

「あ、そうだった。お姉ちゃんからのお使いできたの。一週間前に頼んだものって言えば分かるっていってたけど」
「あぁ、そうでしたか。ちょうど私から持って行こうと思っていたのですよ」

 ルーフェスお兄ちゃんは、机の引き出しから何かを取り出した。
 ・・・・キーホルダー?

 手渡されたものは、拳大の卵形のキーホルダーが2つ。

「以前ナナに聞いたものを作って頂いたのですよ。ロケットペンダントというものです」

 思い出した。
 3ヶ月前くらいなんだけど、アーランドからすごく珍しく旅行者がいらっしゃったのだ。その旅行者がたまたま写真屋さんで、路銀稼ぎでアールズで商売していたのだ。
 その際、お姉ちゃんと一緒に写真を撮ってもらい、居合わせたルーフェスお兄ちゃんにロケットペンダントの話をしたのだ。

 私が知っているロケットよりかなり大きいものだけどね。ロケットを開けてみると写真が二つ。
 一つ目は、蓋側にいつの間に撮ったのか両親の写真。2つ目の開いた先に私とお姉ちゃんの二人で撮った写真が納まっていた。

「うわぁ。すてきですね♪」

 もう一つの方も開けてみると同じ写真が入っていた。

「一応、ナナとケイナの二人分ですね。ケイナからお揃いでできないか頼まれましたので」

 お姉ちゃんとお揃いかー・・・いいかも。
 顔がにやけるのが自分でもわかる。

 それにしても・・・
 5年もたったけどお姉ちゃん子なのに拍車がかかっているのではないかと思う。両親は基本的に共働きで昼間いないし、自然とお姉ちゃんがお世話してくれるからだ。
 お姉ちゃんがメルルお姉ちゃんのメイドさんになっても、私がちょくちょくメルルお姉ちゃんのお部屋に遊びに行くから、今でも変わってない。

「あ、ルーフェスお兄ちゃん。このロケットって余りがあるならライアスお兄ちゃんにも挙げるといいよ。きっと喜ぶから!」
「ライアスにですか?ふむ、まぁ、後3つあるのでかまいませんが、ライアスが使うのでしょうか」
「絶対好きな人の写真を入れるって!」
「ライアスに好きな人ですか・・・」

 むー・・・ルーフェスお兄ちゃんのことだからライアスお兄ちゃんからの好意(もちろん、家族/兄弟や尊敬による行為だよ)を知っているのかと思ったんだけど・・・
 まぁ、私から行くことでもないしいいか。

「ルーフェスお兄ちゃんのには、何を入れるの?」
「そうですね・・・・・。ナナの写真でもいれましょうか」
「え・・・・?」

 えーと・・・ロリコンじゃないよね・・・?友達とか・・・?でも普通友達の写真いれるかな・・・
 え、えぇぇーーーーーーーーーーーー。
 き、聞けないよ・・・冗談だよね?
 チラッとルーフェスお兄ちゃんの顔を覗くと特に表に出てわかる表情はしていない。
 よし!冗談に違いない。この話は終わり!

「そうそう、話が変わりますが、あなた持っている生きているいとですが、錬金術士のトトゥーリア様が作ったみたいですよ」
「あっ、やっぱりそうだったんだ」

 ゲーム内では生きているヒモというアイテムが存在するが生きているいとと言うのは出てきてなかった。
 数年前に偶然ルーフェスお兄ちゃん経由で入手し、私の特技に生かしているが、在庫が切れそうだったんだよね。
 たぶん紐で干し草系を使うところを糸や布で使うような材料を使っているのではないかと思っている。アーランドで手に入るもしくは、作り方が分かるといいなー
 もちろん、自分で作れると尚いいけどね。

 その後、ルーフェスお兄ちゃんが仕事再開と言うことで家に帰り、お姉ちゃんにロケットを渡した。
 アーランドへ行くまでの数日間は、お姉ちゃんにたっぷり甘え、遊んだ。

 すごくドキドキわくわくする。お姉ちゃんと離れるのはとても嫌だけど、同じくらいに錬金術やこの世界をたくさん見れることに心躍るのだ。
 そう、私の冒険は今から始まるのだから








前へ 目次 次へ