メルルのアトリエ アーランドの妹錬金術士
天然錬金術士登場




 アールズを出てから約一月経とうとしていた。
 乗りん込んだ馬車には、御者の方以外にジオおじさまとエスティさん、それから私しか乗ってない。
 お二人とはかなり親しくなり、友達感覚で何時の間にか話すようになってた。

「『ねぇ、ケイナー助けてよー』
 『姫様、何処へいくのですか。やることはやっていただかいないと』
 『ふんっ、メルル!兄貴を困らせるなよ』
 『あらあら、ナナ、あまり食べ過ぎちゃいけないわよ』
 あははっ、だってお姉ちゃんのクッキー美味しんだもの」
 馬車の中に私の声が響き渡る。

「ふふっ何度見ても見事なものだ」
「ほんと、器用ね」

 器用と言うのは私の特技のことだ。
 別に七色の声を持っているわけじゃないけどね。

 現在、馬車内には複数の人形が動きまわっている。
 それぞれ平均30cmくらいの人形でそれぞれメルルお姉ちゃん、ルーフェスお兄ちゃん、ライアスお兄ちゃんそしてケイナお姉ちゃんの姿をしている。
 各人形はそれぞれ複数の糸が私の指から伸びている。
 そう特技って言うのは人形遣いのことだ。

 小さい頃(今でも小さいけどね!)、暇な時間に裁縫を始め、大好きなお姉ちゃん人形を作り上げられるようになった。
 その頃はまだ6,7歳くらいだったけど、既に大人の思考を手に入れている私にとって、裁縫が普通なら難しい年頃でも少々大変ですむことができたんだ。
 間もなくお姉ちゃんがメイドとして上がり、私もときどき遊びに行っていたものの、やはり一人時間も多く、読書や人形遊びが多くなった。
 そんな時、ルーフェスお兄ちゃんからあるものをもらった。
 それが錬金術士が作りあげた「生きているいと」なのだ。
 常日頃から人形に動いてほしいと願った私にとって、生きているいとは本当に幸運な出会いだっただろう。
 調教し、今では30cmくらいほ大きさの人形であれば同時に4体も動かせられるようになったのだから。
 子供の体力なんて高が知れているからね。生きているいとと私が揃って初めてできる芸当なのだ。

「『あはっ、ありがとうございます。ジオおじさま』」
 メルルお姉ちゃんの人形がジオおじさまにぺこりとお辞儀する。

「ふむ、知り合いにも人形遣いが一人いたが、ナナ君の人形捌きも見事なものだ」

 あーあの人ですね。確かゲーム「ロロナのアトリエ」にでてきた・・・名前なんだったっけ・・・?

 流石に暇になってしまったここ数日、私は人形劇と言うか一人オママゴトを披露している。
 べ、別にさみしい奴じゃないんだからね!
 とりあえず、今日のところはここで終わりである。

 私は人形を片づけていると、首から下げたロケットが目に入った。
 これがなかったら、半ば目的を忘れてお姉ちゃんのところに戻りたいって言ってしまいそうだなー
 私はロケットを開くと写真のお姉ちゃんをしばらく見て、ロケットを服の中にしまいこんだ。
 アールズを出てから1日1回以上やってる行為だ。

 「ナナちゃん。もうすぐアーランドに着くわよ」
 「10歳での長旅で少し心配だったが、ナナ君にはそのロケットさえあればどこにでも行けそうだな」

 エスティさんとジオおじさまから声がかかる。
 確かに1日1回お姉ちゃん分を補給して大丈夫だけど、やっぱり本物に会いたい。
 早くトラベルゲートがほしいなー

 そうそうジオおじさまたちの話を聞いているところ私が存在しているせいなのか少々話が違ってきている。
 まずは、トトゥーリア様こと、トトリだ。
 「トトリのアトリエ」ではまず3年間ある程度冒険者ランクを上げて、さらに2年間冒険者として頑張れば冒険者の永久資格を手に入れることができるはずだ。
 だけど、実際には、後半年しないと永久資格を取れないはずだけど、既にポイントも合格ラインを取得しアーランド全域にその名を知らしめているくらいだ。
 さらに永久資格を取ったことにより、行方不明となっていたトトリの母、ギゼラ・ヘルモルトとそのギゼラの看病を行っていたであろうアストリッド様が戻ってきている。

 そうそう錬金術の師事に関してはジオおじさまとエスティさん両方ともロロライナ様を進めている。
 アストリッド様については、性格ゆえのトラブルメーカーであるため、二人して言葉を濁すしね。
 トトゥーリア様は錬金術を行使できる冒険者としてまだまだ世界中を飛び回っているため難しいかもということ。
 まぁ、アーランドの錬金術師はみな癖あるからなー。
 すでに伝書鳩でロロライナ様に手紙を送ったところ快い返事がもらえているとのこと。

「そういえば、ナナ君はアーランドについたら何か見てみたいものはあるのかね?」

 ジオおじさまはなんとなくで、聞いてきたのだろうけど、ふと聞いてみたいことがでてきて思わずにやける。

「マスク・ド・Gさんに会ってみたいです!」
「ブフッ」

 言った瞬間、ジオおじさまが吹いた。
 ちょうどお茶飲んでいたものだから目の前にいたエスティさんに真正面からかかる。

「ちょっと、ジオ様、汚いですよ」

 エスティさんはジオおじさまに文句言いつつ体にかかったお茶を拭いていく。

「それにしてもナナちゃん、よくマスク・ド・Gを知っていたわね。確かにアーランドでは有名だけど、アールズでも名を知られるようになったのかしら」
「いえ、ほとんどの方が知らないと思いますよ。私はアーランドに興味があったので調べてたらいつのまにか知るようになっちゃって。しかしすごいですよね。正義の味方マスク・ド・G!なんでも単体の騎士団を凌駕する強さだったとか」

 チラッとジオおじさまを見てみると少々照れくさそうにしている。
 なんとなく珍しい光景だ。

 マスク・ド・G

 「ロロナのアトリエ」時代から存在するマスク・ド・G!その正体はジオおじさまなんだよね。
 確かアーランドで売ってるマスクを被っただけなんだけど、ほとんどの人に正体がばれないとか。

「ふむ、そのうち会えるかもしれんな」

 なんて言っちゃってるしね。

 そんな他愛もない話を2時間くらいしていたら、御者さんからアーランドの都が見えてきたと伝わる。
 窓から乗り出してみると確かに見えてきた。

「ロロナちゃんに事の顛末を手紙で送っておいたから、馬車の搭乗口に迎えに来てるかもしれないわね」

 ジオおじさまたちも忙しいらしく、ロロライナ様に私を任せることになっているらしい。
 ほどなくして、アーランドにつくと馬車から下りる。

 グーッと背伸びするとすごく気持ちい。
 ほとんど馬車の上だったので体中カチコチだ。

「あ、ジオさん!エスティさん!」

ふと少々離れた所から声がかかる。
振り返ってみるとピンクの錬金服に身を包んだ女性がやってくる。
ロロライナ様だ。
しかし、あの服って周りの人に比べると妙に違和感があるね。
それに確か後数年たつと30代なんだよね・・見えないわー・・

「おお、ロロナ君。久しぶりだな」
「相変わらず元気ね。ロロナちゃん」
「えへへへへー」

すごく子供っぽいし。
それからロロライナ様はすぐそばに立っていた私の方に向く。

「あなたが、ナナ・スウェーヤちゃん?」
「はい、よろしくお願いします。ロロライナ様」
「あはは、ロロナでいいよ。みんな呼んでるし。けど、こんなに可愛い子だとは思わなかったよ」

 ロロナさんは私の傍まで来るとピタッと抱きついてきた。

「それではロロナ君。ナナ君をお願いするよ」
「あ、はい。あ、そういえばステルクさんが探してましたよ」
「ステルク君も大変ね。まぁ、ここで気付かれるのもあれだし、ロロナちゃん、まだ内緒にしといてね」

たぶん、アールズのことはまだステルクに話していないのだろう。
騎士マニア?だからね。
暴走するにももう少しあっためてからでもいいのかもね。

「ジオさん、エスティさんありがとうございました」
「なーに、錬金術の有用性は十分理解している。頑張ってお姉さんの手伝いができるようになるといい」
「はい!」

 そういうとジオさんとエスティさんは町中へと入って行った。
 エスティさんが手を軽く振ってくれたので私は大きく振りかぶってバイバイした。

「それじゃ、ナナちゃん、アトリエの方にいこうか」
「はーい♪」

 ロロナさんに手をつながれて私たちも町のほうへ歩き出した。
 アトリエまで道でいろいろと説明してくれた。
 アトリエって職人通りにあるんでしたね。
 そのうち、お姉ちゃんといっしょにアーランドにきたいなーと思いつつ、ロロナのアトリエへと足を向けた。


 そういえば、えーと「ロロナのアトリエ」で人形遣いをやってた人って、職人通りだったか広場だったかで大道芸をしていたよね。
 私も練習したらできるのかなー








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