「We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas,」
定番のクリスマスソングをご機嫌に口ずさむ。
アルヘオはとんっと跳ねるように駆けてゆき、くるっと舞った。
「We wish you a Merry Christmas...」
ぱっ、と手を開いた次の瞬間、

「And a Happy Your Hell!」
轟音と共に血花が咲き乱れた。

巨大な触手を一斉に叩きつけた衝撃で地響きが轟く。
音が引き、舞った埃も引いていき、一面真っ赤に染まった床の中心でアルヘオは立っていた。さながら舞台の主役のように、満足げにあたりを見回して。
ほんのちょっと前まで耳触りな騒がしさで満ち満ちていたが、今は余計な口をきく者は誰もいない。何せ口がなくなったのだから。老若男女揃って仲良く血と肉片に。贅を尽くしたパーティー衣装がどっぷりとそれらに浸かっていて、ますますアルヘオは楽しげに微笑んだ。
「…全滅確認。お見事です、アルヘオ様。」
「バイジャもご苦労様。おかげで駆除がはかどるよ。」
「恐れ入ります。これで今夜はもう5件目ですね…そろそろ休まれてはいかがでしょうか。お身体に障ります。」
「もう少し付き合ってくれない?今夜はとても気分がいいんだ。」
足元に千切れて転がっていた手。その指輪まみれの指をぐしゃりと踏みつぶしてアルヘオは笑った。
「殺してくれと言わんばかりの馬鹿で溢れ返っているからさぁ。」
世は12月25日、メリークリスマス。クリスマスにはどうやら人の頭を揃って猿並にする効果があるらしい。色違いの所有者達もご多分に洩れず、どいつもこいつもやる事と言えば酔っ払いながら色違いを撫で回し舐め回し、挙句は乱交パーティなどが開催される始末だ。
オリジンにしてみれば、絶好の活動日和なのは言うまでもない。
「今日は俺達だけでも20匹超えだよ?一日でこんなに狩れる日はそうはないよ。レイドとエレジアも結構狩れてるんじゃないかなぁ。」
噎せ返る血の匂いの中で両腕を広げ、びちゃびちゃと数歩進んだ。水たまりで遊ぶ子どものよう。虚空を見上げる黄の瞳は、夢見るように遠くを見ていた。
「これだけの数の色違いが今日、この世から消え去った。それだけ世界から塵が消え、清浄で美しい世界に近づいた。素敵な夜でしょう?バイジャ。まさに聖夜と呼ぶにふさわしい!」
バイジャはそんなアルヘオにすっかり目を奪われていた。語られる理想よりもターゲットを綺麗に掃討した室内よりも…美しいのは、ひどく無邪気に理想に酔いしれる、主の姿。
「…いつか、見られる日が来るのでしょうか。」
だからだろうか、バイジャまで少し饒舌になってしまった。幸せそうに小さく微笑み、口を開く。
「アルヘオ様が仰る"清浄で美しい世界"を…貴方様のお傍で。」
すると少し驚いた様子でアルヘオが振り返り、それからにぃやりと笑む。
「言うようになったじゃないか、擁護派の分際で。」
「擁護派だなんてそんな…。」
「間違ってないでしょ?急に一体なんの心変わり?」
台詞は辛辣だが、にやにや笑んでいるところを見るとからかっているだけのようだ。バイジャはたじたじと目を泳がせ、やがて観念したようにぽつりと言った。
「…アルヘオ様が望まれる世界なら私も…惹かれてしまいます。」
「愚かだね。でも今日は機嫌がいいから、そんな愚かさも許してあげるよ。」
今度はくるんっとバイジャへ向き直って、手を後ろに組みじっとバイジャを見つめた。身長差のせいで少し上目遣い気味になる。
「…そうだねぇ。いつか理想の世界に辿りつく事ができたら、ご褒美に俺の唇でもあげようか。」
人差し指で自分の唇に触れながら。一瞬ぽかんとしたバイジャだったが、言われた意味を理解すると硬直する。
「―――ッな、えっ、あるっ、アルヘオ様!?何を仰って…!?」
「なぁに?ああ、唇なんて今更すぎたかな?」
「違ッ、そうじゃありませんそうじゃなくて、そのッ!!」
慌てふためくバイジャが面白かったのか、とうとうアルヘオは声をあげて笑いだした。けらけらとひとしきり笑い飛ばすその笑顔は、場所さえ変わればクリスマスにありがちな光景だというのに。
「あーー面白かった。ほら次のミッション行くよ?はやくおいで。」
「もっ、申し訳ありませんアルヘオ様……あの、先程のはご冗談です、よね…?」
「さぁね。君の頑張り次第ってとこじゃない?」
慌てて追いすがるバイジャを、ちろりと視線だけで振り返った。

「あげるけど、するのは君からね。じゃないと一生、あげないよ?」





Wish.


(冗談か。約束か。どちらにしたって。)

fin.