リオル 高さ 0.7m 重さ 20.2kg ルカリオ高さ 1.2m 重さ 54.0kg バンギラス高さ 2.0m 重さ 202.0kg ボスゴドラ 高さ 2.1m 重さ 360.0kg しかし、これは平均値であり、必ずしも絶対的な数値ではない。 ピンからキリまでいる。小さい子、痩せている子。 大きな子、太っている子。 …少々太りすぎて丸々としたポケモン達もいるのかもしれない。 朝日が昇る頃、リオルは目をぱっちりと開ける。 体内時計は性格だ。  そして、すぐに師匠の部屋に向かう。弟子が師匠を起こす…という、違和感のある光景も今は毎朝の日課になりつつあった。 『明日のキミは今日より凄い』 「師匠、起きてください。ルカリオ師匠ってば」 ゆっさゆっさ、体を揺らすと同時に腹もボインボイン素敵なほど揺れ動く。なんで揺れるかってーと説明するまでも無く、ルカリオ師匠はおデブであり どうしようもない巨漢であった。 それなのに、僕よりも・・・ううん、ボクが知る大半のファイターよりも強く、速く・・・そんな彼だからこそ、弟子になったし今でも憧れる。 けど、このグータラなマイペースさは直して欲しかった。 「師匠!起きてくださいってば!!」 布団は“はだけ”て、かなり不格好な姿で寝ている師匠。軽く揺さぶった程度ではビクともしない。 「んぐぉーー、むにゃむにゃ」 「はぁ・・・師匠、朝ごはんが出来ましたよ」 仕方なく、“師匠に効果抜群”の台詞を述べる。 するとルカリオは目をごしごしこすりながら、ゆーっくりと動き出すのだ。まるでケッキングのような、だらけた動作・・・ この場面だけ見た者なら、彼はどっからどう見ても“ただのデブポケモン”にしか見えないはずだ。 本当の凄さを知っている弟子のリオルでさえ、なんか本当の姿はこっちなんじゃないかと思いたくなるほど。 「うーむ、眠いなー」 ドスンとベッドに腰掛ける。そのままコテンと横に倒れる。 2度寝のパターンである。 「っ!師匠、いい加減にしてくださいっ!!」 思わず“はっけい”を使い力強く前脚を突き出す。 ボヨン! と 壮絶なる腹肉によって威力はゼロになる。こうかはいまひとつ・・・いや、効果なかったようだ。 まるでゴーストタイプを相手にするような、この無力感。 「(我が師匠ながら、酷い太りっぷり・・・)」 3度の飯より4度のメシが好き・・・要約すると超大食いで食べる事大好き(はぁと)なルカリオ師匠は、日々、体の大きさを、増やしていた。 この師匠を起こすまでの一連の動作も、修行の日課になりつつあった。 ちなみに朝食はリオルが用意した。ルカリオも自分で作るのは得意なのだが、いかんせん起きる時間が遅い。 今日もテーブルには色とりどりの料理が並ぶ。健康に気を付け木の実をブレンドしたシチューや、低カロリーポケモンフーズが多い。 けど量が多いから摂取カロリーは結局過剰になる。朝から12皿も用意されているのは、初めて見る者だったらちょっと違和感を覚える。 しかしすっかり師匠の食べっぷりに感覚が麻痺しているリオルは、この量が普通に見えていた。 これでも朝食らしく“一番少ない料理数”だからだ。 昼、そして夕食となるにつれまるで御三家が進化するようにボリュームアップしていく。 「それじゃ、いただきます」 礼儀良く手を合わせる。 「おー、今日もおいしそうだ。腕を上げたなリオル!」 微妙に嬉しくない褒め言葉。料理の腕前より、格闘センスについて褒めて欲しいな そして豪快に師匠が食べ始める。ガツガツ ムシャムシャ ゴックゴク 「お代わり!」 「えっ、あ、もう、ですか? はい」 とても美味しそうに食べてくれるのは、なんだか嬉しいけど、ちょっぴりこそばゆい。 ドッサリと食後のリンゴも出しておく。リオルが1個で十分なのに対し、ルカリオ師匠は安定の5個。 「うん、腹八分目ってところかな」 あんだけ食べて置いて、よくもまぁ・・・と思いたくなったけど、事実そうなのだからツッコミを入れられなかった。 『ポケモン相撲大会』 朝の稽古。まだ陽が昇ったばかりで肌寒いが、体を動かすとすぐ暖かくなった。 マットを縛り付けた丸太に、突きや上段蹴りの練習をする。 基礎は大切だとよく師匠は言っている。 めんどうだと思わず、真剣にリオルは稽古を続ける。 「ふぅっ、基礎の型100回終了です師匠!」 「うんお疲れ様。それじゃあ、いつもの組手から・・・と行きたいところだけど今日は少し趣向を変えよう」 「?」 「今日は東の方で午後からポケモン相撲大会があるんだ。そこの見学に行こう」 「えと、ポケモン相撲・・・ですか?」 僕らの種族とは正直無縁な競技・・・あ、師匠は違うかもしれないけど。 でも自分が、そこから何か学べるんだろうか。 ちょっと疑問だった。 「瞬発力、筋力、そして一瞬の判断が試される“戦い”だ。 本当の強さを知りたかったら、色んなものも見ておかないとね」 「わかりました、師匠が言うなら」 なんだかんだで、師匠は僕の尊敬する相手で、信頼していた。普段が普段だけど・・・本当は凄いんだって知っていたから。 ※ で 会場までの道には多くの露店があった。とくに多いのが食べ物屋。 「うぉっ!思ってた以上に出店があるぞリオル! あのクレープ美味しそうだ・・・うーん、揚げ物もいい匂いだし、あ。リンゴ飴は買わなくちゃ名」 「し、師匠・・・まさかこの為だけに来たんじゃない、です、よね?」 いや、まさか。いくら師匠が食いしん坊だからって稽古をさぼらせてまで買い食い目的に来るなんてことは 「あ、ありえそう・・・」 参加者じゃないだろうか、けっこーぽっちゃりしたポケモンが多く見受けられる。 なるほど、彼ら向けに食べ物屋が多いのかな。いや、試合前にそんなバカスカ食うポケモンっているんだろうか・・・ 「うめぇー!この串焼き追加で40本くれ大将!!」 見知ったバンギラスが、参加ゼッケンを片手に、手当たり次第に食い散らかしていた。 「・・・いた」 フラグ回収というやつだ。迂闊な事を言うもんじゃないかも、とリオルはまた一つ賢くなった。 「ん? おー。なんだ、ルカリオ達も大会に出るのか?」 「こんにちは、バンギラスさん」 「やっぱり君も出るんだな」 「おうよ、勿論!なんたって商品が、特選のぜんこくポケモンフーズ、1か月分だからよ!」 あれ、お知らせには大きく半年分と書かれているのに・・・? 超巨漢バンギラスさんにとっては、一般の6倍は食べるからだろうか。 にしても、暫く顔を合せなかっただけで滅茶苦茶また太ったような気がする。 いや短期間で太りすぎかも。っていうか、よく見たら膨れすぎてる!? ズシン、ぼよん♪ ズシン、ぼよん☆ ズシン、ぼよよぉん! よろいポケモンの大福餅腹が揺れている… 近くまで来ると、物凄い迫力だった。一言で表すならデブ。二言で示すなら凄いデブだ。 「バ、バンギラスさん太りましたね・・・」 「うっぷ。なーに言ってんだリオ助、前に会ってから1週間も経ってないってのに。げっぷ」 「でも、凄い・・・お腹周り、ですよ」 「いくらガタイが良いとはいえ、運動不足じゃないのか?」 ひとのことを言えない師匠でも同意するほど、バンギラスは大きかった。太かった。 こんな会話をしている間にも、串焼きを5本、10本と平らげていく。 「いやぁ、それがさ。げふっ。いろいろ出店の料理を食いたいもんだから予定より早く来たんだが...うーっぷ! 3時間ぐらい、ずーーーーっと食ってたわけよ。そしたら、もう見事に腹がパンパンなわけよ。うごぉおっぷ!」 なるほど、どーりで一回り大きいと思ったらそんな理由だったみたい。 そのペースで3時間食べ続けるとは、さすが師匠以上の巨漢だ・・・ 「そうそう、ルカリオ、お前にもお勧めの店とかけっこーあったからよ! 大会までの時間はまだあるし、もう一巡り付き合わねぇか?うぷぅっ」 「おお、嬉しいよ。もちろん一緒に同行させてもらうよ。リオルも行こう」 満面の笑みになる師匠。 師匠が笑うと、とても無邪気に見えて、ちょっと可愛いから困る。 特に食べ物が絡むとこうだ。 シリアスな表情は滅多に見れない。 こうして、出場する身のバンギラスと一緒に暫く食べ歩きが続くのだった 『鉄と肉の鎧を纏いて大地に降り立つ』 「う、うぐぅ...もう、食えねぇー・・・!うぷ」 「ふー、ふー・・・私もだ」 師匠もバンギラスさんも、見た目に差が出るほど食べていた。 「けぷ。僕も師匠たちほどじゃないけど食べ過ぎちゃったかも」 リオルは両手でゴクゴクとミックスオレを飲みながら、ベンチに座って休んでいる。 大会の受付けはそろそろ終了する。試合開始もそろそろだろうに、こんな調子でバンギラスさんは大丈夫なのかなぁ。 こんもりと盛り上がったお腹の大きなこと! しかも食べ過ぎて膨れただけならともかく、全体的にどこを見ても太い。 腕も、足も、むちむちのパンパン。尻尾だって一般的なバンギラスの胴体ぐらいはありそう。 師匠も大概だけど、バンギラスさんの方が相撲には似合ってるかも。体重の数値はどれだけあるんだろう? 最低でも500kgは超えてるはず。以前、デジタルの体重計を壊された記憶が新しい。そういえば師匠の体重もわかってないや。 暫くして、アナウンスがかかった。 「んぐぐ・・・い、行くとするか」 バンギラスさん、本当に大丈夫なのかな? 「応援してるよ。さて、応援席に行くとしようかリオル」 「はい師匠」 会場についてから、控室への通路をちらっと見るとぞろぞろと巨大なポケモン達がのっしのっし視界を揺らがす程の重量感で歩いていく。 やたらお腹の突き出たオーダイルとか、太りすぎで足元が見えずに段差にひっかかるニドキングとか。 …あたりまえだけど、どの選手も凄い体型だね。 太ったポケモンがぶつかり合うだけの競技ではないと思いたい。 リオルは師匠に渡されたリンゴ飴をペロペロと舐めながら、開始の時を待った。 ーーーー 選手控室にて、酷く落ち着きのない鋼タイプのポケモンがいた。 立派なツノ。逞しい脚。大木を薙ぎ倒せそうな力強い尻尾。 そして馬鹿みたいに太い胴体。 てつよろいポケモンのボスゴドラである。本来はここまで太っていないが、彼もバンギラス同様特別な個体に違いない。 「あわわ、みんな強そう」 彼は屈強な体を持ちながら、プレッシャーに弱かった。そのうえ上がり症であり、本番は余計に緊張する。 「ええと、緊張をほぐすには手のひらに“ポケモン”って書いてそれを飲み込めばいいんだっけ」 藁(わら)にもすがる思いで、ボスゴドラは左手に、右手を伸ばし・・・届かない事に気が付いて愕然とした。 え、なんでっ!そんなに手が短いのかな・・・? 説明すると、彼は太りすぎで胸囲(チェスト)がありすぎ手が届かないのだ。なんたる不幸。 「お、なーんだボスゴドラお前も来てたのか」 突然声をかけられてボスゴドラはびくっと肩を震わせた。 「あ、な、なーんだ。バンギラスさんかぁ」 見知った顔がそこにあって、ホッとする。 よろいポケモンのバンギラスと、てつよろいポケモンのボスゴドラは共通点も多いし、彼らは食いしん坊な点でも仲が良かった。 「相変わらずガチガチになってんのか?“てっぺきのボスゴドラ”の名前は伊達じゃねーよな〜 この辺はボヨンボヨンだけどな」 笑いながら、お腹を触られる。本来ならガッチリどっしりしているはずのボスゴドラの胴体は、何故か弾力感があった。 「あう・・・」 「なんか太ったんじゃねーのお前?」 バンギラスさんには言われたくないけど、否定は出来ない。 「ま、気楽にしてろって」 「は、はい」 ポンポンと肩を叩かれる。正面からは無理なので、横からだ。 「お前も優勝した時の副賞が目当てか?」 「いえ、そういうわけじゃ。ただ実力を知っておきたくて・・・」 きっと普通のポケモンリーグに出ても、まともに戦えないと思う。 「身体の丈夫さだけが取り柄だったから、ポケモン相撲なら頑張れるかも・・・って」 「ふーん」 話を聞きながら、モグモグと控室に置いてあったポケモン饅頭をパクつくバンギラス。 一瞬にして20個の意外とボリュームのあるそれを1箱食べきる。 「けふ。ま、なんにせよ今日はライバルだな!負ける気はねーぜ?」 バンギラスさんの目はメラメラと萌えている。きっと優勝後の賞金ならぬ食料品の事を考えているのだろう。 「あれ、そういえばバンギラスさん。お店の方は?」 今日は別に定休日じゃなかった気がする。予想できたから答えは聞くまでもないんだけど・・・ 「あー、そりゃお前。休業日にしてきたに決まってるだろう」 しれっと、超個人的な理由を述べつつバンギラスは笑った。 彼のマイペースさは羨ましい。  「えー、続いてバンギラス選手。入り口の方へお願いしますグワ」 「もう出番・・・っとと」 係りのゴルダックに言われたバンギラス。向きを変えるだけでちょっとバランスを崩しそうになっていた。どうやらお腹があまりに重い様子。 本来なら“はがねタイプ”を持つボスゴドラの方がバンギラスに比べ1・5倍ほど太っている。もとい重い。 けど、バンギラスさんは確実に、誰が見ても、151匹のポケモンにアンケートをとったとしても。 ボスゴドラ君より重い、と答えられる。そんなボリュームだった。 「・・・」 バンギラスさんが行ってしまうと、再び緊張し始める。 勝てるのかな? 1回戦で負けたらどうしよう? 「うう〜〜」 ぐるぐると目が回る。気を紛らわす手段はただ一つ・・・ 何かを食べる事! 幸い、大食いばーっかりいるポケモン大相撲の控え室には、有り余る料理やおやつが揃っている。 出来立てのピザや、フルーツケーキ。揚げたポテトやポップコーン。 「あぐ、むぐ、あむ、んぐんぐ・・・!!」 手当たり次第にボスゴドラは食べ始めた。1リットルのミックスオレをぐびぐび音を立てながらラッパ飲みする。 「・・・ぷはぁっ!」 ちょっと食べ過ぎちゃったかも? でも、おかげで少し気は紛れた。 「え〜、続いてボスゴドラさん。土俵の方へお願いします」 「は、ひゃい!」 不意打ちで呼ばれたせいで、思わず声が裏返ってしまう。 ギクシャクとした動きで、試合をする土俵へと赴く。 対戦相手は、これまた“立派”な体型のバクフーン。おそらく、4つんばいになって走る事は不可能な、そんな見た目をしていた。 転がった方が早そう。 行司の合図と同時に、相手が突進してくる。 ど、どうしよう! 避け・・・るのは体が重くて無理だし、こっちも前に出た方がいいのかな。 あー、でも出遅れたから勢いがつけないし・・・っ! 「むん!!」 ドスン! と、力強い巨体がぶつかってくる。“たいあたり”にすぎない行為が、ギガインパクトのような衝撃を与えてくる。 もふぅ〜ん、とした柔らかなバクフーンのボディの感触もあったが、それ以上に強いのはその重量感! 自分の方が重いはずなのに、押されてしまう。 「(う〜〜、どうしよう・・・!)」 とりあえず安定の“てっぺき”を使う。本来ならギシィ!とガッチリと体躯が引き締まり、どんな物理攻撃もかかってこいや状態になるのだが。 いかんせんボスゴドラ君は常識を逸する程度には肥満体でボヨンボヨンだったので、お腹の弾力が強まるぐらいだった。 しかし、それが功を制した。 「うぉおおっ!!」 再び、激しくぶつかってくるバクフーンだったが・・・ ぼよお〜ん! と、パッツパツに膨れあった巨腹同士が反発しあい。斥力(せきりょく)でも突如生まれたかのようにバクフーンは弾き返された。 どっすぅ〜ん!! と、仰向けに倒れる巨体。 「あ、あれれ」 「ぐぅっ、負けたかー!」 ジタバタ手足を動かすバクフーン。起き上がる動作すら時間がかかる。 「か、勝っちゃった」 なんだか想像と違う結果になったけど、負けるよりはいいよね・・・? 控え室にもどると、バンギラスさんがバクバクと各種のピザに手を伸ばしていた。 「んふぉ、どほひゃふぁ、かっふぁみふぁいだな??」(どうやら勝ったみたいだな?) 口に物を入れたまましゃべっていたが、なんとなく聞き取れた。 「実力で勝った気はしないですけどもね・・・」 しゅん、と寂しそうにボスゴドラは落ち込んだ。 「ンゴクンッ・・・ぷふぅ、うぇっぷ! なーんて顔してんだよ。どんな場合でも、勝った時は喜んどけって、ほれ」 次の試合の事を考えて無いような食べっぷり。バンギラスさんは、リラックスしてて、凄いな。 差し出されたピザをボスゴドラも一緒になって食べ始める。 1枚、2枚、3枚・・・8ピースに分割などしていない。1枚丸々のピザを何枚も彼らは食べ続ける。 「ふぅー、ふぅー・・・うーーっぷ!へへ、さーて腹ごなしの運動といきますか」 ほとんど上がらない肩をまわして、バンギラスは試合に臨む。ムチムチの後姿は、非常に頼もしく、力強い。 バンギラスが出て行ってから、すぐにワァッ! と歓声が上がる。 やっぱり・・・僕と違ってバンギラスさんは本当に強い。 次の試合、本当に大丈夫なんだろうか。 不安とは裏腹に、ボスゴドラは次々と勝利していく。彼にはバトルのセンスがあった。足りないのは自信、そして度胸。 ウエイトだけでなく、技術も持ち合わせていた。 毎日、強くなろうとトレーニングしていた。大岩を持ち上げて動かしたり、ドスドスと大地を揺らしながら頑張って走ったり。 雨の日も、風が強い日も。 ーーー 「な、なんとか勝てた・・・」 相手のニドキングは強敵で、何度も土俵際で踏ん張った。 気付けば、今のが準々決勝だった。 「はぁ、はぁ、」 と、試合が終わるとアナウンスが入った。 「これより、昼食の休憩にはいります。決勝は2時間後となりますので、選手や観客の皆さまは---」 「よ、お疲れさん」 休憩室に行くとパンを片手に、決勝の相手・・・バンギラスが出迎えてくれた。 「喉かわいただろ?ほれ」 「ありがとうございます」 投げ渡された“サイコソーダ”を貰い、炭酸だったがゴッキュゴッキュと一気に飲み干す。 「いい試合をしような」 「は、はい!」 「とはいえ、まずは腹ごしらえだよなっ!腹が減っては相撲も出来ねぇって言うし」 ニシシと笑いながら、バンギラスは山盛りになった皿を積み重ねていく。 今朝、顔を合わせた時に比べ明らかに腹部が“膨張”していた。すんごい胴体の太さ・・・ 確実に、一番の強敵だ。重量だけじゃない、バンギラスさんの強さは十分に知っている。 でも、そんな相手こそ真剣に戦いたかった。 ボスゴドラは度胸こそないものの、強い勇気を兼ね備えている。心の奥底には熱く燻(くすぶ)る炎が燃えている。 一方でバンギラスの方も、その事を知っていた。 泳げない癖に、溺れているイーブイを助けるため川に飛び込んだ記憶もある。 「(水をたらふく飲んでパンパンになってたっけな)・・・ま、一緒に食うとしようや。 1時間以上あるしな」 休憩時間中、観客たちは露店で暇つぶしなどをする。 ルカリオとリオルたちが買い食いをひたすら続ける間、決勝の舞台へと進むバンギラスとボスゴドラも暴飲暴食の勢いで、座ってる強化椅子を破壊しそうな勢いで膨れていく。 「ムシャムシャムシャムシャ!」「ガツガツガツガツ!!」 「グビグビグビグビ!」「ゴクゴクゴクゴク!!」 「「ぷはぁーっ」」 2匹揃ってジュースの注がれていた大ジョッキを降ろす。結局、彼らは休憩時間まるまるノンストップで食事を続けてしまった。 意外と負けず嫌いのボスゴドラと、元から大食漢のバンギラス。 「う、ぇ、えぷ、あふぅ、ふぅ、お腹、パンク、しちゃいそ・・・」 調子の乗って食べすぎちゃった・・・ 擦ってギブアップ寸前のお腹を労わってあげたいが、何しろ手がまともに届かない。 やっぱり、もっと意識してダイエットもしないと駄目かな。 「へ、へへ、朝から通算したら、けっこー、食いすぎ、た、かも、ぐぇぷ」 流石のバンギラスも、今回ばかりは反省しているようだった。普段の倍近く早い呼吸になっている。 「よっ・・・こら、しょ・・・っと」 だが、それでも超重量の肉体を立ち上がらせる。なんと強靭な足腰だろう。 「ふぅーーーーー・・・優勝は俺が貰うからな」 「ぼ、僕だって負けませんからね!」 あ、や、やばい。いよいよ決勝と思うと急に体がガチガチになってきた。いや、太ってるからそこまで固くは無いんだけど、うまく動かせないというか、まるできょうせいギプスをつけているような、そんな感覚。 「(うわわ、どうしよう)」 再び手のひらにポケモンという文字を書こうとしてこれ無理なんだって気づいて、変な汗をかきはじめて目がグルグルし始める。 「だぁー、お前の悪い癖だなそれ」 「す、す、すみません」 声も震えているのがわかる。余談だが緊張のせいで体も震えてお腹がぷるぷる震えててそれもまた太りすぎな点を誇張する要因になってるけどそれは今どうでもよくて。 「気楽にいこうぜ?ま・・・オレは本気でやらせて貰うけど(なんせ1か月食べ放題・・・!)」 「・・・!」 バンギラスさんの真剣な顔は迫力があった。そうだ、知り合い同志と言っても次は決勝。 しかもお遊びじゃない、順位という実績を手に入れることが出来るんだ。 尊敬する相手に、勝ちたい。 いつしか、ボスゴドラの緊張はほぐれ始めていた。 「・・・へっ、良い顔するようになったじゃねーか」 「ボクも、負ける気はないですから!」 そして試合がいよいよ始まり・・・! やっぱりボスゴドラ君はボスゴドラ君であった。 「はわわわ・・・!」 彼の上がり症は、そう簡単には治るはずもなく。 顔文字で表記すると ゴ・・・(>w<;)ゴドリャーー! こんな感じだった。いっぱいいっぱい感丸出しである。 「おらおら、どうした、このまま俺が押し切っちまうぜ」 ズズ、ズズと次第にボスゴドラの超巨体が押されていく。 “メタルバースト”で相手のエネルギーを利用し押し返す・・・!という手段は、うまく決まらない。 反撃の姿勢を取った瞬間、バンギラスは力を緩め、他の状態変化技を使うのだ。 相手は決勝まで楽々とやってきたバンギラス流石に強い。。ぎらりとした威圧的な“にらみつけ”によって、防御力が落とされ踏ん張りが利かない。 さらに“こわいかお”をしながら、爪同士を絡ませ“いやなおと”をはじき出す。踏ん張る力も、瞬発力も削られていく。 「もういっちょ!」 ズン!! と、片足を大地に叩きつける。グラっと大地が僅かに揺らぐ。 やばいっ、と思った時にはすでに渾身のたいあたりが繰り出されてきた。 けど、こんな簡単に負けるわけにはいかない! 「グォオオオ!!」 気合を入れ、会場内が揺れるほど大きく“吼え”た。その怒涛の発声に、バンギラスのタックルの威力が僅かに緩和されギリギリ耐える。 なんとか、“こらえる”事が出来た。今のタイミングしかない・・・ぶつけられたエネルギーを無理やりカウンターに利用した。 自分の全体重を乗せる勢いで、メタルバーストを放つ。基本的に飛び道具は禁じ手なので、体の表面にエネルギーを鎧のように纏(まと)わせた突進だ。 「う、ぬ、ぐぉっ・・・!」 ズン! とバンギラスの腹に、勢いよく体当たりする。がっしりと組合い、再び両者は土俵の中央際に戻る。 「うぷっ、くく、ちょっと、今のは、きつかったな・・・」 「バンギラス、さん、こそ、今のを耐えるなんて、思いませんでした・・・」 ギギギ、ギシィ! 拮抗する両者は、鋼の肉体を持つ身であるからこそ、まるで刀同士がつばぜり合いをしているようだ。 実際はボインボインなお腹が大部分ぶつかり合っているが、迫力が無くなるのでそこは注目してはならない。 文字通り、一歩も譲らないバンギラスとボスゴドラ。先に、体力の無くなった方が崩れていく・・・そんな緊迫の場面。 「く、ぐ・・・っ・・・!」 やはり先ほどの一撃がきいていたのだろう、バンギラスが辛そうな表情を見せ始める。 だが、それは痛みとは別の何かであり・・・ 彼は試合中にずっと緊張させてた肉体に、力が入らなくなってきていた。早い話、ギュウッと引き締めていたウエスト。つまり腹回り。 というかお腹そのものが・・・抑え込んでいた物が、爆発的な勢いで解放された。今日だけで、あれだけ食べたのだからそれはそうである。 ブクゥッ、ボヨン!! 「うわわ!!」 従来のちからに加え、瞬間的なお腹の反発力が重なり、その勢いたるや“はかいこうせん”を物理エネルギーに変換した場合に匹敵するとかしないとか。 そこまでは大げさだが、とにかくそのバンギラスのお腹☆パワーが炸裂し、ボスゴドラは体勢を崩す。 そこをチャンスとばかりに、バンギラスがそのカビゴンを凌駕する 超 巨 体 を押し付け、そして覆いかぶさるようにのしかかりをした。 ドズズゥウウウウウン!!!! と、会場外にまで響きそうな轟音と土煙を起こしてボスゴドラは倒された。 「それまでっ!!」 土俵外にいる行司(ポケモン相撲ではみんな太りすぎで土俵が狭い為)のフーディンが旗を上げ、その瞬間、優勝者が決まった。 歓声と同時に、多くの座布団が飛び交い、会場は熱気に包まれた。 「負け、ちゃった・・・」 「はは、ワリーな。なんかラッキーで勝っちまった」 ボヨ、ボヨォンと素敵に無敵なお腹を揺らしながらナイスバディな優勝者が苦笑いする。 「いえ、本当はもういっぱいいっぱいで、だから耐えれなかったんです」 すでにボスゴドラは限界だったが、気合でなんとか持ちこたえていた。 「でも・・・楽しかったです。ありがとうございました」 「へへ、そっか。俺も最後に思いっきりカロリー消費出来て良かったぜ」 「あはは」 今日摂取した分の1割も消費できてないに違いない、というツッコミを他のポケモンならしただろうが、ボスゴドラ君はそんな無粋な発言はしなかったし思いもしなかった。 今の彼には、満足感だけがあった。力を出し切れたし、後悔もしてない。 今回の大会のおかげで、ちょっとだけ自信がついた。余分なものもついて、体重もついでに増えてしまったのはご愛嬌。 そんなこんなで、ポケモン相撲の地区大会は食い気が誰より一番♪なバンギラスの優勝で幕を閉じた。 ーー※ーー 「いやぁ、迫力があったねぇ」 5箱目の弁当を食べながら、ルカリオ師匠は満足そうに試合を見終えた。 「どうだった、リオル?少しは勉強になる点があれば良かったけど・・・・と?」 「・・・」 リオルは無言で、土俵の方を見ている。 「あはは、つ、つまらなかったかなー」 「すっ・・・」 「ん?」 「・・・凄かったです師匠!!」 目をキラキラさせながら、ガバッと師匠の膝に飛びつくリオル。ぷにょんとした小さなお手手がルカリオのお腹のお肉をむぎゅーと押す。 「力と力、技と技のぶつかり合い!そして各ポケモンの判断力っ!!太った体っていうマイナス点をうまく攻撃や防御に利用して! 師匠も、そんな体だけど凄いって事の理由の一端が見えた気がしましたっ!」 「そ、そんな体って酷いなー」 「師匠は、あえてイバラの道を進んでいるのですね・・・! 普段はぐーたらで、だらしなくて」 「う」 「お代わりばっかりで、寝転がってテレビばっかり見て」 「むぐ」 グサリと言葉が突き刺さる。 「こんな師匠にずっとついて行って大丈夫かな・・・って時折不安に思うんですけど」 「っ?!」 「今回のポケモン相撲を見て、強さっていろんな形があるんだなって気づけました!」 「は、はは・・・そうか、うん、それなら、いいけど」 リオルの言葉にちょっとだけショックをうけた師匠はもーちょっと生活習慣を見直した方がいいかも?と肝にめいじる事にした。 「特に、決勝は凄かったですね。バンギラスさんも、ボスゴドラさんも」 「ああ、そうだな。状況に適した技、そして使うタイミング。いかに無駄なく隙を作らずに、うまく立ち回る必要があるか、見ててわかりやすかったろう?」 「はい、見学に来てよかったです」 「うんうん。さて、試合が終わった後は露店が更に増えて夜店があるんだ」 「そう、なんですか?」 「それじゃ、小腹も空いてきたことだし・・・夜店めぐりに行くとしようか!」 ウキウキと今までで一番嬉しそうな表情を見せる師匠。ほ、本当に“そっち”はオマケとしてとらえていいんですよね?! その夜、帰宅したルカリオはまるで酔っ払いのようにヨタヨタと歩くほどに食べつくし、その日摂取した総カロリー量は今月一番だったという。 リオルは子供用の体重計に乗って、また1kgほど増えたことにショックを覚えつつ今日の試合を思い出し、眠りにつくのだった。 〜後日談〜 ポケモン相撲大会があってから、1か月後・・・バンギラスが急遽、店に来て欲しいという知らせがあった。 ルカリオとリオルが現場(?)にかけつけると、そこには変わり果てた姿のバンギラス店長がいた。 「う、う、う、ぐぇふぅ・・・、よ、よーお前ら、きてくれて、ありがとな」 「ど、どうしたんですかバンギラスさん、“その体”!!?」 大広間を占拠する太りきった超風船デブ化した巨体。 「い、いやぁ、副賞として、1か月分の食いもん貰ったんだけど、ちょ、調子に乗ってたら食いすぎちまって・・・まだ結構残ってるんだけどなぁ、ぷふぅ」 「いやいや、あれは1年分だからな?」 流石の師匠も呆れ顔を見せている。 「し、暫くは店に出れないからよ・・・うっぷ。お前たち、ちょっとの間で良いから、店番して欲しーんだわ」 「は、はぁ・・・いいですけど」 修業はちょっと遅れるけど、この店に来るまでの間に走り込みすればいいかな? 「もう、ボスゴドラの方には手伝ってもらってるから、色々教えて貰ってくれ・・・うぅっぷ!は、腹が重てー・・・」 完全に重度肥満者の風船体型になったバンギラスは暫く復帰は難しそうだ。 店の方に行くと、これまた試合の時よりちょっぴり太ったボスゴドラが出迎えてくれた。 どうやら、2位の副賞とバンギラスさんがくれる食料品と店の余り物を食べ続けてこうなってしまったのだとか。 それから1週間後・・・ 「し、師匠?なんだか体が大きくなってません?」 「んー、気のせいだろう〜」 なんだか声も野太くなった気がするし、太ももとか二の腕とか、首周りとか、あらゆるところが凄く・・・太い・・・です。 胴体は、もう言うまでもなく太すぎて、本当にルカリオなの?って言いたくなってくる。 「もぐもぐ、むしゃむしゃ」 「師匠、裏で食べてばっかりいないでちゃんと接客してくださいよ〜」 そして1か月後・・・ 「よっしゃー完全復活!あぁ、辛い日々だったぜ・・・」 ダイエットを頑張ったバンギラスさんは、見事に店に復帰。リバウンドが心配だけど、なんだかんだで鍛えてるし運動もするからあまり心配はいらない。 問題なのは・・・ 「ふぅーー・・・ふぅーー・・・リオル、ご、ごめんなぁ〜、まだ、今日も起きれそうにないかもしれないー」 こんもりと盛り上がった布団。ギシギシと悲鳴を上げるベッド。これでもか!というぐらい、師匠は太った。 店の手伝いで元から少ない運動量が減り、そのくせ食べる量はググン!と増えたのだから、当然はらにくもグググーーン!と急成長。 レベル20の肥満度がレベル40になったぐらい、深刻になって、見事すぎる丸々とした体型となり。 とうとう起き上がれなくなってしまったのだ。 今日はダイエット開始から二日目。 「ぅーお腹空いたなぁ・・・モグモグ」 「あー、もう師匠!ダイエット中なのにチョコを・・・ってもう5枚も紙が破られた形跡が?!」 リオルの苦難の日々は、始まったばかり・・・! 余談であるが、ボスゴドラも太りすぎて走る事すらままならなくなり、今ではヒィヒィと汗を流して、近所迷惑なぐらいドタドタと大地を揺らし、 鋼鉄と贅肉の肉体を引き締めるのに頑張っている。 頑張れ、リオル、そしてボスゴドラ! 輝かしい戦いの日々はまだまだこれからだ! 終わり