=== この国で、最も巨大な者はまだ決まっていないが、一番の大食漢といえばすぐに名前が挙がってくる。 “テンダール”という名の竜がそうであった。 このマクロニア国で最も敷地面積が広い土地で、豪勢な屋敷に暮らしている彼は、今日も沢山の召使い達の補助を受けながら生活をしていた。 「さてと、今日のおやつは何だ?」 昼食に、それこそ“山ほど”の料理を平らげた後だというのに、それから2時間もすればテンダールはあっという間におやつを楽しみにしていた。 「はい、テンダール様。本日は、チョコレートフォンデュを堪能頂きながら、バニラ仕立てパンケーキを10枚、シフォンケーキ、チョコレートケーキを1ホールずつ。 その後は高級果実をくわえたクリームのドーナッツをフルーツ種別ごとに5個ずつの計60個でございます。 お飲み物としましては、ブルーベリーヨーグルト仕立てのドリンク、パッションフルーツのミックスジュース、サイダーとお水を2リットル用意させて頂きました。」 ガラガラと台車に乗せられて、たっくさんのおやつが彼の前に並べられる。これだけで、かなりのカロリー摂取になるだろう。 確実に太ることは必須。だが、それは彼自身が望んでいることなのだから問題ない。 そう、ここはマクロニア国。体が大きければ大きいほど立派なのだ。 たとえ、それがぶくぶく肉付いて肥大化した体であってもーーーだ。 現に数世代前のトップは、凄まじい脂肪を蓄えて家に収まりきらない程であった。当然、身動きもとれず、ひたすら協力者たちの支援を受けてずっと太り続けたのだという。 テンダールも、確実に同様の道を辿り始めている。今の彼は明らかに脂肪が蓄えられすぎており、もし貯蓄したエネルギーだけで生存可能な生命だったら数年は余裕で飲まず食わずで過ごせるレベル。 そんな状態にも関わらず 、彼はこうして日々過剰な摂取を繰り返している。 テンダールは、綺麗におやつを食べきると満足そうに背もたれに寄りかかった。強化式の超肥満専用椅子が綺麗に折り曲がる。普通の椅子だったら確実に折れていた。そもそも、テンダールの体重を支えられないが。 平均的な身長の、5倍・・・いや8倍。下手するともっとあるだろう体重は、竜として問題がある。 しかし、さすがは屈強な生命体のドラゴン。それほどの自重になっていながら、まだ自分の力のみで立ち上がる。 「よっこいしょっと。 ふー、、、」 この頃は足の疲労が半端じゃ無い。ぶよぶよとした四肢を可能な限り振ってテンダールはなんとか歩行した。ほとんど摺(す)り足に近かったが。 自室に戻ると、乾燥肉のおつまみを片手に、ソファーに寝て趣味の読書に没頭し始めた。 そこそこの学はあり、難しい本も読むことがある。 あまり積極的に外出しない彼は、ただでさえ動かないのに、家の中でも動かないのだからそりゃあ蓄えたエネルギーは余る余る。 そして余分なものは全部脂肪に変わっていた。ピラミッドのように、3段以上に段々になった腹。 近い将来、彼の体が肉の塊となって脂肪の山を築き上げるのは時間の問題であろう。