太っちょワニのボス・アリゲドが率いる組織“エフロード”。 エフロードはこの地方の3大勢力の一つだった。 エフロードのメンバーが住む大豪邸は、小さな村のような広さを誇り 敷地内に複数の建物や施設もあった。 食堂や出店、プール、服屋。果ては研究所まで備わっている --- ・・・ アリゲドは大食漢だった。 その風貌を見れば、一目瞭然だ。 毎月新調するスーツは、常にパツパツに張り詰めている。 食事時でもないのに、手元には常にスナック菓子やジャンクフードの備えがあり。 そもそもシルエットが相当な肥満ワニだった。 太い腕。太い脚。太い尻尾。太い腹。 どこを見ても平均値からかけ離れた、それはそれは立派な体格である。 ひょろひょろの、吹けば飛ぶような貧弱で細い者よりは組織のボスらしいと言えたが それにしたってアリゲドは少々、いやかなり太り過ぎだ。 挙句の果てに 恐ろしい事だが、彼はまだ“成長途中の段階だった” つまり伸びしろがある。イコールまだまだ太っちょになっていくというわけで。 そして太った要因は様々あった 【アリゲドと40人の部下たち】 ウサギ獣人のトローミィは、今日もマジマジと尊敬するボスの姿を拝見する。 相変わらず、立派な体格をしている。 彼女は、ボスのアリゲドが決してデブだとは思っていない。 豪快な食べっぷりは、男らしくて素敵だったし、小食な自分とは対照的だった。 「よし、今日も頑張ろうっと」 自分の役割は、組織のメンバーの胃袋を満たす事。 エプロンを装着し、長い耳を折り曲げてコック帽子をかぶる。 この組織、エフロードは大食いの連中が多い。 その為、仕事はかなりやりがいがある。 トローミィは、手際よく素材の下準備を始めると料理を開始した。 食事の時間まではかなりあるはずだが、何しろ量が多い。 ボスの分を、心持ち多く用意しながら彼女はウサギならではの機敏な動きで次々と料理を生み出していく・・・。 -- 「げふ〜食った食った。 相変わらず、ここのメシはうまい。 あいつには感謝しねぇとな」 明らかな摂取オーバーしたお腹をさすりながら、デブワニのアリゲドは廊下を満足げに歩いていく。 ◆ ヒグマのゴロゴロは、エフロード一番の腕っぷしを誇る力強い巨漢であった。 ビア樽のように丸々とした腹が出て、太っているが、その巨体が生み出すパワーはまるで重戦車のそれである。 「ボス!今日もお相手お願いしますっ」 稽古の時間、たまたま通りがかったボスに呼びかける。 「ああ?めんどくせぇなぁ・・・ とはいえ、この頃ちぃとばかし運動不足気味だしな。いいぜ」 組織のボスとはいえ、割とフランクなアリゲドは気前よく相手をすることにした。 軽く組み合って、力比べをする。 肥満体型の両者が向き合うと、重量相撲をしているようにしか見えない。 アリゲドは、どっしりと構えたまま、全く足元がふらつかない。 流石、自分が尊敬するボスだ・・・ゴロゴロは感心する。 どう考えても太りすぎて重心がしっかりしているだけだが、 ただの肥満体にプラスしてある程度のパワーも持っているようだ。 もっとボスに恥じない力を身につけねば。 と、ゴロゴロは再びトレーニングを再開した。 -- 「ふー・・・ふー、いい腹ごなしになったな。 けど動いたらまた腹が減ってきたぜ。」 アリゲドは、ポケットに入っていた携帯食の高カロリークッキーを惜しみなく3本平らげた。 ◆ 目標接近。ターゲット、ロックオン。 外しようのない距離。相手はいまだに気付いていない。 気配を押し殺し、エルフ族のスウナは隠密活動で鍛えた能力をフルに活用し 自身のボスに襲い掛かった! 「アリゲド様ーーー!!」 わきゃーっ、て普段見せないとびきりの笑顔でスウナは親愛なるボスに抱きついた。 ぽよぉん、と凄まじい弾力を発揮しながら、信じられない包容力を持ったボスのお腹をひっしりと両腕でつかむ。 「どわぁっ、スウナ、貴様っ、死角から来るのはやめろと言っているだろう?!」 心臓が飛び出そうなほど驚いて、アリゲドは抱きつかれた反動で1歩引いた。 ちなみに、彼には死角が多すぎるので実は悪気が無い時もある。 (理由:巨大に膨れた胴体が視界の大半を埋めたりするから) アリゲドは、怒鳴りつつも、放漫なスウナの豊胸に対して赤面していた。 遠慮なく体を押し付けてくる彼女の、昔より更に立派になった二つのおまんじゅうが、 アリゲドの顔をより一層赤くさせた。 力を持ったグループのトップでありながら、かなりウブな面も持ち合わせている。 そんな彼が可愛らしくって、余計にスウナは猛烈なアタックをしたりするのだが。 放せと怒鳴られ、ようやくしぶしぶとスウナはビア樽(のようなもの)から離れた。 「だって、ボスが素敵なんだもん」 スウナはボスの丸々と太った体が大好きだった。 ぬいぐるみ集めなどが趣味な彼女にとっては、ふっくらとSD化したようなアリゲドのフォルムは非常に愛らしく、常日頃抱きしめたいと思っている。(思うだけじゃなく実行してしまうのが悪い癖である) ちゃっかり手作りのボスの編みぐるみも持っているのは秘密。 そして可愛さもそうなのだが、時折見せるシリアスな表情が格好良すぎてそのギャップも惚れ込んでいる理由の一つだ。 「理由になってねぇよ、バカ野郎。 ったく…それで。仕事の方はきっちりしてきたんだろうな?」 ある意味、かなり無礼な部下であるスウナだが実力は折り紙つき。 非常に優れた諜報員で、彼女がもたらした情報で大きな戦果や大金をもたらしたことは多い。 自信満々に、スウナはブイサインをして返事する。 これでいて、活動時には鋼のような冷静沈着さを見せるのだから、余計に信じられない。 オンとオフを切り替える女性って怖い。と、ボスも他のメンバーも恐れている。 「もっちろん! えっと、サァドの方は相変わらず沈黙しています。 DEB(ディー・イー・ビー)の方は動きがありました。3日以内に、ベスギッタ地方へ遠征に行くようです。 遠征についてのファイルは、このROMに入れておきました」 「…そうか、助かるぜ」 「それよりボスっ。向こうのお土産、買ってきましたよ」 実は、ひそかに楽しみにしていたもう一つの報告に、アリゲドはピクンと反応した。 もちろん、全部食べ物だ。 スウナは、とりわけ美味しく、しかしちょっと太りやすい否低カロリーのお菓子や食品を大量に買っていた。 理由の一つは頼まれたからだが、ほぼ自主的なものだ。 なぜなら、ボスにはもっと丸々と愛らしくなって欲しいからだ。 「おう、後で部屋に運んでおいてくれ」 「了解です。最優先事項に登録しておきますねっ」 ― 表情は変えずに、アリゲドは内心とても喜んでいる。 今度はどんなうまいもんを食えるのか、新しい出会いに胸を膨らませていった。 (ちなみに出会った後は胸じゃなくリアルに腹が膨らむ) ◆ キュウルは衣服を取り扱う、仕立て屋のアルマジロ。 自身の体は大きくないが、体が大きい者の衣服も簡単に作成する器用さを持っている。 彼がいるおかげで、エフロードのボスは気兼ねなくその横幅・前後幅を成長することが出来ていた。 逆に言えば、優秀なキュウルのスーツ・私服作成技術に甘えて気にせず太り続けてるとも言えたが。 キュウルが店のカウンターで新聞を読んでいると、快晴が曇り空になったように、すぅっと視界の文字が暗くなった。 ふと顔をあげると、ボスが軽く手をあげ、「よう」と挨拶していた。 「アリゲド様、本日は何用でしょう?」 「いや、どうもな。ベルトを緩めても、どうにも窮屈感が消えねーんだ。 だからよ」 後は言わせなくても、理解できる。 わかりました、とキュウルは早速アリゲドの元へトテトテと歩いた。 その身長差・体格差は相当なもので、大人と子供――-いやそれ以上だ。 キュウルは手際よくボスのウエストとかお腹周りとか胴回りetcを調べると、 作業に入りますね、と言ってカウンター奥の作業室へと消えていった。 ガチャガチャ、ゴトン!ギュイーーン、ガリガリガリ!! ぷしゅー・・・ 俄(にわ)かには、スーツを新調しているとは思えない音が部屋から響いてくる。 以前、気になるあまり覗いたが、普通にアナログな作業をしていたから驚いた記憶がある。 あっという間に、シャツとスーツを持ったキュウルが奥から現れる。 数分もかかっていないのではなかろうか。 それだけ優秀だからこそ、信頼がおける。 すでに市販ではなかなか買いにくいサイズを自然に着るようになっている。 アリゲドが専用の大型試着室で着替え終える。 腰をまわしたり、腕を動かし、着心地を確認する。 どうやら今回の出来も満足しているようだ。 続く