ゆっくりとした、揺れを感じる。まるで揺りかごに乗っているような、意識しないと気づかないぐらいの小さな揺れ。 「ん、ん〜・・・?」 ダークルギアは目を覚ました。寝起きだからか、頭がぼーっとする。 辺りは見慣れない光景で、どことなく無機質な感じ。人工的ともいえる。 いつも通り空腹で目を覚ましたは良いが、周囲には食料が準備されていないどころか、見知ったものが何一つ無かった。 「あ、あれ。どうなってるんだこれは。」 そこは島の巨大空洞と同じくらいの空間で、(体育館ぐらい広い)ダークルギアのとんでもない巨体が入っても余裕でスペースがあまる場所であった。 船で一番大きな格納庫なのだが、この時のルギアがそんな事をもちろん知る由もない。 暖かい布の寝床から、ゆっくりと体を起こすと目の前にいる小さなポケモンがペコリと挨拶をする。 「起きられましたか。おはようございます。」 丁寧な口調で話しかけてくるのは、ねんりきポケモンのフーディンであった。 「私はフィーディンと申します、以後お見知りおきを。」 密猟団の手持ちポケモンの中でも、特に知能の高いフーディンが担当にされたのは、それだけVIP待遇だという証だが、もちろんダークルギアはそのことも知らないし、状況もわかっていない。 「ここは一体どこなんだ?」 至極当然の質問だが、もちろん馬鹿正直には答えない。 「こちらは野生のポケモン専用に作られた豪華客船の中でして、島の皆さんは今回の歓迎対象に選ばれたのですよ。」 「俺たちを・・・また、なんでそんな事?」 不信感というよりは、単純に不思議に思ってヌシは質問する。 「私どものマスターが経営するサービス業では、ポケモン達がいかにリラックス出来るか、どれだけ快適に過ごせるか改善し続け、 日々精進する事を目指しているのです。それで、定期的に野生のポケモン達を招待しては感想やご意見を頂いてサービスの向上を心がけている次第です。 一部のポケモン達には、すでに話をつけてあったのですが、貴方様は寝ておられましてーーー半ば無理やり連れてきてしまったのは申し訳なく思っています。」 フーディンが淡々と説明するが、ダークルギアは警戒心をすぐさま解いてしまい、話をすっかり信じ込んでしまった。 あの島のポケモン達は基本的に全員がマイペースかつやさしいので、最初から疑ってかかったりすることはほとんど無いせいであろう。 「他の者たちも、すでにくつろいでおりますよ。」 そう言って、備え付けてあったモニターをつけると、見知ったポケモン達がそれぞれ部屋でのんびり過ごしている映像がうつった。 ≪いやぁ、本当にうまいもんばっかりだなここは!≫ オーダイルは山盛りのお菓子をバクバク食べていたし、 ≪ふはぁー極楽、極楽。≫ ラティオスはマッサージチェアらしき台に体を預け、指圧を受けているようだった。 自分以外のポケモンがいる事で、ダークルギアの警戒心は完全に解かれてしまった。 「期間は、それほど長くないですがゆっくりしてください。 あ、飲み物と食事はすぐに準備致しますよ。」 そう言って部屋の入り口が開き、カイリキーがガラガラと運んできたサービスワゴンからは既に美味しそうな匂いがただよってくる。 ゴクリと唾を飲むルギア。そういえば驚いて、お腹が空いていることをすっかり忘れていた。 「それじゃお言葉に甘えて、、、、いただきまーーす。」 こうして、彼の快適な生活が始まる。それが、罠だとも気付かずに・・・ chapter.4[救出して、脱出して、そして] リザードンは、ここがどんな場所か知っている。なにしろ一度捕まって、長期間「監禁」され、逃げ出した場所こそがこの大型船なのだから。 そして、その事を密猟団も知っているため、始めから容赦などしない。接待は、ポケモン達の身動きを封じる為の手段に過ぎない。 「まさか自分からまた戻ってくるとはねぇ、碧眼?」 この船、というよりこの支部のリーダーである女が監禁部屋へ入ってきた。監禁、といっても牢獄ではない。 他のポケモン達同様に、明るくくつろげる空間になっている。ただし、逃げられないように拘束具はつけたままだ。 「グルルル・・・・!!」 鋭い目つきで睨み返すリザードン。会話は出来なくても、ある程度のニュアンスは互いにわかるというもの。 それに対し、彼女は肩をすくめてから言葉を続ける。 「ヤレヤレ、そんなに怖い顔をしないでもらいたいね。・・・なんて、一度あんな目に合わせてそれは無理ってものか。 今度は逃がさないよ。おい、“アレ”の準備をしておけ。」 部下に指示を出し、以前リザードンに対して行った束縛方法を準備させる。 「リッ、リザッ?!(げっ、もしかしてまたあれか・・・?!)」 ///// 一方、その頃ダークルギアはというと。 一般的なカビゴンでも食べきれない大量のポケモンフーズ缶を空けつくし、のんびりとモニターを通して他のポケモンと談笑していた。 と、そこへ、暫くして部屋の呼び出し音が鳴ったかと思うと、数名の人間達とフーディンが入ってくる。 ーーーーーよし、準備を始めるぞ。 ーーーーしかし、こんなにでかいポケモンを見るのは初めてだな。 ーーーーーあぁまったくだ。しかし、大きさもそうだが、太り具合も凄いな。それとも、実際はこれぐらいのサイズだったんだろうか。 「・・・彼らは何をしているんだい?」 何やらたくさんの機材や道具を出して作業する人間達。はてなを頭に浮かべつつ、フーディンに尋ねてみる。 「食事の準備ですよ。前にも言ったとおり、ポケモン達が快適な生活が出来るように日々研究や実験をしているのですが、 特に拘らなければいけないのは食事でしてね。ひとまず、これを飲んでみてくれませんか?」 そう言われフーディンに薄紫色をした半透明の物が入ったビンを渡されたので、飲んでみた。 一言で表すなら、美味しい。凄く美味しい。 「う、旨い!なんだ、これ?」 どうやらゼリーというものを流動食にしたそうだが、島ではこんな物が無かったので凄く新鮮だった。 人工的な味付けをされた嗜好品は、天然物に比べ非常に魅力的な味がする。 すぐさま“ソレ”の虜になったダークルギアはゴクゴクと数十リットルに匹敵するゼリーを飲み干した。 「美味しかったですか?これはまだまだ改良の必要がありましてね、皆さんに暫く食べてもらって感想を貰いたいそうなんですよ。 彼らは今、好きなだけ食べられるように準備しているのですが・・・・おっと、終わったようですね。」 気がつけば、今のゼリーを自動給与するための機械が部屋に設置されたようだった。 「もしよければ、一日何度か食べて貰いたいのですが、協力して貰っても構いませんか?」 「もちろん、構わないぞ。ーーーというか、あんなに美味しいものいくらでも食べたいぐらいだ!」 ぺろりと頬っぺたについていた残りを舐めとる姿は、まさに食いしん坊といった所。 その様子を見て、フーディンが不適な笑みを浮かべる。 「そうですか、喜べて頂けるなら何よりです。」 そして、わくわくとした表情でゼリーのお代わりを要求するダークルギアの口元に、消火用に使うぐらい太くごついホースをくわえさせてやった。 彼の身動きを完全に封じるためにーーーー ////////// 流し続けられたゼリーは、どれぐらいの量だろうか。 リザードンは必死に抵抗するが、拘束具で固定された体はほとんど動かない。 「ンンッーー(ゴブゴブ、ゴクン)!!」 太ったお腹の中にゼリーは満たされ、それでも尚飲み続けるせいで次第にどんどん胴体が膨らんでいく。 これ以上、食べたくない・・・だが、飲み込んでしまう。 「ンググ、グゥ・・・!(うぅ、美味いのが、何より悔しい。)」 伸縮性のある腹をおさえつけているベルトが、徐々に伸びていた。 「今で、どれぐらいだ?」 「予定値の、20%といったところでしょうか。」 「ふむーーーまだまだか。まぁいい、とりあえず今のところは止めておけ。過剰なストレスになる。」 ボスの声により、装置は停止してリザードンへのゼリー供給はようやく止まる。 「悪いね。あんたには最初からもう警戒されてるから、さっさと逃げ出せない状態になってもらうよ。 たっぷりとM(エム)ジュエルを飲んで、な。」 そう、さきほどフーディンが言っていたのは、でっちあげである。 本来のこのゼリーの使用目的は、飲ませた相手を“逃げ出せない状態”に仕上げるもの。 元々は体力が無かったり、風邪気味のポケモンに与えるゼリー飲料に改良をくわえ続けた代物だ。 栄養満点で、なおかつ味も良くーーーそして太りやすい。 しかも、タンクの中で圧縮して密度を何倍にもしており、飲んだ後、実際に食べた量以上に腹の中で膨れてしまう。 ちなみに、色がメタモンに似ているからという理由で頭文字をとって名前をつけたようだ。 相手の体内に潜りこんで身動きを封じるメタモンも居たというから、そちらも由来になっているのだろう。 「しかしボス、こんなめんどうな事して閉じ込めておかなくても、ボールに捕まえちまえば良いじゃないですか?」 新人の疑問も最もだ。重りをつけたりすると、体に傷がつく可能性があるから、そうしないのはわかる。 だが、モンスターボールに入れてしまえば何も問題ないのでは、と。 「それが出来れば苦労しないよ、ったく。 一度ボールに入れちまえば、データが登録されて交換時に足がつきやすくなるんだよ。それに、依頼主も一度誰かの手に渡ったやつより“野生のポケモン”を買い取った方が愛着が沸くし、いろいろと都合がいいのさ。 もっとも・・・・市販の安物のボールじゃあ、あのルギアぐらいでかいと規格外なのさ。」 「な、なるほど。」 もちろん維持費は安くない。だが、それ以上に高値で買い取ってもらえるのだから、大儲けができる。 しかも今回は特別にレアなポケモン・・・・リザードン含め、以前のように、絶対に逃がすわけにはいかなかった。 そして、3日ほどが過ぎてーーー。 バクフーン達は、連れ出された仲間たちをどうやって助け出そうか考えていた。 「ねぇラティアス。ラティオスとは連絡とれないかな?」 「うん、何度かテレパシーを送ってるんだけど・・・何か妨害する念波が張られてて伝わらないみたい。」 だが、幸い船は島の近くで駐留しているおかげで、場所はわかっていた。 けれど助けに行く為には海を越えなくてはならない。でっぷりと太った彼らが泳いで辿り着くには少々つらいのだ。 「・・・よし、ホエルオーさんに協力して貰おう。」 島の近くをのんびり海遊しているホエルオーがいるのだが、ヌシ以上のサイズを誇る巨大なポケモンであった。 元から14mを越える全長を持つ種族だが、そのホエルオーは軽く30mはあり、そのうえとんでもなく太っているせいで丸々とした小さな島みたいになっていた。 バクフーンや島に残った一部の力自慢たちは、そのホエルオーに乗って船まで行くことにした。 しかし、ホエルオーが運悪く外の島周辺に遊びに行っていたせいで、バクフーン達は待ち続けなければならなくなった。 //// 「んぐっ、んぐっーーーーぷはぁ〜。いやぁ世の中は広いなぁ。こんな美味しいもんがあるだなんて知らなかった。うっぷ」 密猟団特別製のMゼリーをグビグビと飲み終えると、ダークルギアは満足そうにおくびを漏らした。 余りのペースの速さに、組織の者たちが驚くぐらいである。 「強制的に飲ませる必要は、無さそうだな。だが、まだまだ目標値は遠い。疑われる前に、もっとペースを上げるべきか・・・?」 その後は、マジックハンドのようなものが出てきて、定期的なマッサージをしてくれる。お腹を撫でたり揉みほぐしたり、足の裏など指圧してあげたり、至れりつくせりだ。 「う、結構くすぐったいが、なかなか、心地良いんだよなぁ・・・グゥzzz。」 満腹の中、マッサージを受け続けるダークルギアはウトウトし始め、30分も立つと完全に眠ってしまっていた。 僅かに睡眠を促す薬もゼリーの中に混ぜているせいだ。 食っちゃ寝をひたすら繰り返し、島にいた時よりも更に快適な生活が続く。 信じられない事に、ルギアは一日で100kg、いや下手をしたら2、300kg体重を増やし続けていた。しかも増体ペースは日を追うごとに増えている。 ゼリーを飲み干す度にお腹はパンパンに膨れて張り詰め、元からの風船デブ体型に拍車をかけていた。 だが、未だに動きを制約するほどには達していない。 ルギアを監視・測定するカメラから集めたデータから求められるコンピューターの判断では逃げようと思えば、逃げ切れるレベルと判定されている。 翌日 「ぅっぷ、今日はちと多くないか?」 オーダイルが昨日よりも膨れたお腹を見て、少し苦しそうな表情を見せる。 だが、決してそんな事は無いーーーというハンターのポケモンの嘘を信用してゼリーを飲み続けた。 そして、別の部屋では同様にトロピウスが肥育されていた。 「うぅ〜ん、うーん・・・。」 うつ伏せだと苦しいので仰向けになって休んでいるのだが、いささか食べ過ぎたようだ。 どで〜んとしたお腹はぷにっぷにしており、それをマジックハンドが優しくマッサージし続ける。 そのままリラックスしたトロピウスは昼寝して、どんどんエネルギーだけを蓄えていく。 また別の部屋では、ニドキングとニドクインが揃って同じ部屋にいるのだがーーー 「あなた、少し太ったかしら・・?」 「そういうお前もかなり横幅が広がってないか?」 「「・・・・ま、気にしなくて良いか♪」」 さらに翌日 「なんだか、この味が癖になってきたなぁ〜ゴクゴク。」 最近腹がきついと感じてきたラティオスだが、なんだかもっと飲みたいという気持ちの方が強くなってきていた。 体の太り具合を見ても過剰に食べているのは明らかなのだが常に満腹感を感じているせいか、満腹のつらさよりも美味しさの方が優先され始めたのかもしれない。 平均した固体の何倍の体重だろうか、見た目も本当に丸々としており、飛べるかも怪しいほどになっていた。 実際、ラティオスは最近はほとんど食べては寝続ける一日を繰り返し、運動どころかろくに体を動かしてすらいない。 その三日後・・・ 「(ふぅふぅ、ふぅ、もう、駄目だ、勘弁してくれ・・・!!)」 増体はダークルギアだろうが、膨張の比率でいえば、恐らく強制的にゼリーを与えられているリザードンが一番であろう。 ベッドに張り付けのような状態のまま拘束され、腹が落ち着いてきたと思ったら即座にMゼリーが投入される。 パンパンに育ったお腹は、ゆっくりとだが[ぷくぅ〜〜]と膨れて大きくなっていく。 限界が近づいて、もう飲ませても飲むことが出来ない・・・・というレベルに達すると自動的にコンピューターが薬を与えてやる。 それは体内のゼリーを再び圧縮する物で、胃に空きスペースを作るものだ。その薬があるおかげで、部屋の出入り口から運び出す時に腹を詰まらせる事を防止できる。 だから、単純に太りやすい物ではなく、あえてゼリーという方法を実行しており、しかも圧縮するおかげで限界以上に食べさせる事が出来るのだ。 リザードンの腹部は、同族の中ではおそらく誰よりも見事なサイズの太鼓腹となっており、体重も・ウェストも・全体的な余分なお肉も、だいぶ増えてきた。 今では飛ぶことはおろか、両足を浮かせて(つまりジャンプ出来ない)走ることすら危ぶまれるほどに膨れてしまった。 格納庫を改造したダークルギアの部屋では、新たにタンクにMゼリーが補充されていた。 「ーーーそろそろ島に帰りたいんだが、その、駄目か?」 「えー、せっかく仲良くなったのに寂しいよ〜」「寂しいよ〜、もうちょっとだけ、ね?ね?」 演技派な相手役のプラスルとマイナンが、うるうると目を潤わせて(もちろん嘘泣きだ)ダークルギアのお腹の上でじぃっと見つめてくる。 「彼らもすっかり懐いてしまってますし、もう少しだけ一緒にいてくれませんか?次はいつ会えるか分かりませんし。」 フーディンの説得も加わり、なんとなく罪悪感を覚えたダークルギアは結局 「んむむ、まぁ、もう暫くは一緒にいてもいいかな。」 「わーいやったぁ!」「わーぃわーぃ!そうだ、そろそろおやつの時間だから一緒に食べよ♪」 それからは一緒におやつタイム。とはいえ、食べているのはほとんどダークルギアばっかりで、プラスル達は満腹で遠慮する彼にも容赦なくどんどんお代わりを与え続けるのであった。 そしてポケモンたちが船に連れ去られてから、とうとう2週間が経過したーーー ////////// ハンター達は、余裕を持って売買をする日を待ち続けている。 違法とはいえ、「野生」のポケモンであるので足がつきにくいし、人のポケモンをさらったわけではないので捜査する警官も少ないからだ。 「まさか画像データだけでもこれだけ高値で売れるなんて、今回のポケモン達はまさに上玉って奴だったな。」 「ふふ、競売に出すのが楽しみね。」 捕まえたポケモンは、もうほとんどが部屋の出入り口につかえるレベルに太り、膨らんだし、前のように逃げ出される心配は無くなっている。 彼らは完全に油断しきっていた。 一方、島のポケモン達はホエルオーに乗り、囚われた仲間を助けるため海へ出ていた。 船の位置はエスパータイプのポケモンがいるおかげで、きちんと把握できている。 思っていたよりも島からは離れておらず、2時間もしないうちに船を発見できた。 しかも、他の来客船専用の入り口を開放していたのか、あっさりと船内へ浸入することが出来たので拍子抜けであった。 ホエルオーには外に待機してもらい、バクフーン達は仲間を探し始める。 監視カメラは起動しており、不審者はすぐに知らされるのだが、ポケモンはいちいち報告されることが無い。 通路で船員に見られても、「捕獲したポケモンが散歩してるのか?」程度に思われて見逃されていた。 ラティアスは兄の気配を感じて、別のルートを探すと言い途中で数匹とは別行動している。 「それにしても、広くて迷いそうだよ。みんな本当にここにいるのかなぁ・・・・・。」 見慣れぬ場所にバクフーンの不安が募っていく。 と、その時彼の耳が聞き覚えのある声を捉えた。 「!!・・・みんな、こっちだよ!」 部屋の前にいた見張りのポケモン、ヘルガー達を「おしつぶし」て、倒すと巨体のポケモン達が体当たりをして扉をこじ開けた。 そこに居たのは、元の数倍にも膨れたリザードンがいた。 手足や尻尾は島にいた時よりもムッチリと太さを増しており、わき腹もぽってり、正面のお腹に至っては一般人が見たらパンクしないのが不思議なぐらい巨大に膨れ上がっていた。 推定体重はわからないが、4桁に到達しているかもしれない。首もぶっとくなり短く見えるほどで、下っ腹は余裕で床に接している。 しかも、そんな状態に関わらず今も尚ゼリーを飲まされ続けており、口元には固定されたホースが見えた。 「ンゥ、ンーーッ・・・・・!!」 ゴブゴブと喉が膨らんでは飲み込んだゼリーが腹に溜まっていく。 全く余裕の無い状態なのか、バクフーン達には気がつかない。 目を閉じて必死に暴れようとしているが、拘束されているためほとんど動けない。 ベルトにおさえつけられたお腹だけがわずかに揺れ動いているぐらいだ。 「早く助けなきゃ!ええと、でも、どうしようどうしよう・・?」 だが、装置の止め方がわからない。 あたふたするバクフーンは、まずなんとかして装置からの供給を止めようとタンクをばしばしとたたいたり、ホースを取ろうと引っ張った。 するとーーー −ーー警告!警告!万が一の停止に備え、対象の限界値まで倍速モードへ移行します。 「え、なになに・・?!」 ウィイーーン、ガタゴトと洗濯機みたいに音を出して振動しながらゼリーの供給装置が激しく動作する。 「モガムガ・・・!!(み、みんな来てくれたのか・・・・)ーーーーング?!!!」 非常用モードになった装置は、呼吸する暇も与えないぐらいにどぷんどぷんと満たされた胃に更に送り込み、リザードンのお腹を膨張させ続ける! 「はうわ?!ごめんリザードン、えーっと、これどうすればいいんだろ?!」 ぐるぐると目を回してバクフーンは完全に混乱状態になっていた。 結局ホースは取り外せず、機械もかなり頑丈で壊せなかった。 その5分後、 ーーーータンクの残量を確認してください。残量が確認できませんでした、停止モードに入ります。 ようやく固定されたホースが口から自動的にはずされ、リザードンは自由になった。 「大丈夫リザードン?!」 「はぁ、はぁ、はぁ〜・・・・う、うぇっぷ・・・。 な、なんとか大丈夫だ。腹が、かなりきついけども・・・。」 どうやらタンクの残量が無くなると、停止するようだ。 だが、空になるまで飲み干したリザードンのお腹はまた一回り大きくなっており、シルエットだけ見ると太ったポケモンが身重になったみたいだ。 部屋の外・・・というより、船内が何やらあわただしい。 次々と部屋からポケモンが脱走しているので、流石に気づかれたようだ。 だが、リザードンはどう見ても部屋の入り口よりも太ってしまい出る事が出来ない。 どころか、まともに立つことすら不可能だった。 「そこ、の、ぐふぅふぅ、棚にある瓶の中にある、錠剤を、俺に飲ませてくれ・・・」 「ええと、これ?」 言われた場所にあった薬をとり飲ませてあげると、少しずつリザードンのパンパンだったお腹のサイズが落ち着いていった。 どうやら体内のゼリーを圧縮してくれたようだ。 体の重さはほとんど変わらないが、なんとか引っくり返ったままの体を起き上がらせることは出来る。 「ふぅー・・・・ありがとう。」 「歩ける・・・?」 「ゼェ、ハァ、なんとか・・・・」 バクフーンは疲労しきったリザードンに肩をかして、ゆっくりと広い廊下を進む。 ドスンドスンと重たい足音を響かせながらーーー。 //// 「連中を絶対に逃がすな!船内のポケモン、総動員してでも止めるんだ!!」 「は、はいっ。」 「(絶対に逃がすものか・・・特に、あのルギアだけは!!) お前達、D(ディー:ダークルギア)への厳戒態勢と逃走防止設定を最大にしろ!」 本気のボスの声に、部下はびびりつつもコントロールルームへと走った。 島のポケモン達の行く手に立ちふさがるハンターたち・・・ だが、島の巨大ポケモンとハンターのポケモンにはウェイトの差がありすぎた。 物理攻撃は基本的に彼らの(太くて)でかい体に阻まれてダメージは通らなかったし、相手の重量の乗った攻撃でほとんどのポケモンは一撃でKOされてしまう。 次々と開放されていくポケモン達。そして、とうとう残るは島のヌシ、ダークルギアのみとなった。 「お兄ちゃん、ヌシ様はどの辺りにいるかわかる?」 ラティアスは気配を探したが、エスパーポケモンのさまざまな強い妨害念波が張り巡らされており見つけられない。 兄のラティオスはその点は優れているので、必死に意識を集中させる・・・ 「うーん・・・・腹一杯で集中できない・・・・・ちょっと、待ってくれ・・・えーっと・・・ よし、わかった、こっちだ!」 こっちだ、といいつつ完全に風船化しているラティオスは歩く速度よりも遅い。 バンギラスとザングースに抱っこされつつ、彼は全員を先導した。 それから暫くしてーーー 「この扉の向こうから感じる・・・!」 「おっきな扉・・・どうやって開けるのかな?」 うーん、と考え込むバクフーンの隣でバンギラスが言う。 「こんな扉なんてぶっこわしちまえば良いだろ!」 そして「はかいこうせん」を出して豪快に扉をぶっ飛ばした。 「げほっ、げほっ・・・まったく乱暴だなぁ。それで、ヌシさまはここのどこにーーー」 と、辺りを見回そうとして、バクフーンはすぐさま視線を止めた。 格納庫を改造しただけあって、かなり広い空間だが、探す必要などなかった。 目の前の視界いっぱいにダークルギアのお腹が映ったからである。 何メートルも先にいるのに、その巨体はとてつもない威圧感を放つボリュームとなっており、とにかくそのサイズは「凄まじい」としかいえない。 例のホースが繋がったマスクで口元はふさがれており、Mゼリーが入った巨大なタンクはゴウンゴウンとけたたましい音を立てながら起動していた。 「ヌ、ヌシ様っ!!」 元からだいぶ太った彼だったが、今の膨れ具合は想像以上であった。 基本的に捕まったみんなは風船やボールのように丸々としているのだが、ダークルギアはその段階を通り越して楕円状になっている。 特有の長い首はほとんど確認できず、頬っぺたもリスが餌を溜め込んでいるみたいにぷっくらしている。四肢も空気を入れたみたいにパツパツになっていた。 背中もだいぶ綺麗に曲線を描いているが、パンッパンに膨れたお腹の前面の出具合は満月を飲み込ませたぐらいの巨大さ。 しかも、信じられない事にそのお腹の大きさは僅かにだが成長し続けている。 「ンン、ング、(ゴク、ゴク・・・)ムググ! ンっーー!!ン〜〜〜っ」 大食い王と呼ぶに相応しい食欲を誇る彼だが、さすがにこれは限界許容量を大幅に超えていた。 目にはうっすらと涙が浮かんでおり、その苦しさが垣間見える。