----- 閃光の後、数秒遅れて雷の音が聞こえる。 船内はバタバタと慌しく、混乱と共にあちこちに声がとびかっていた。 ???「通路のシャッターを下ろせ、必ず捕まえるんだ!!」 ???「クソッ、まさかあの状態で逃げ切られるとは・・・っ。他の部屋のロックも再確認しろ!」 1匹のポケモンが、息を潜めて甲板近くの物陰で息を潜めている。 外は強い雨風で、酷い嵐だった。 慎重にあたりを見渡し、人影が完全に居なくなった時点でそのポケモンは必死に船からの脱出を図る。 だが、暴風と、ある理由から体の調子が悪く、上手く飛ぶことが出来ない。 飛び出したものの、風と波にさらわれ、あっという間にその姿は見えなくなってーーーーーー 6時間後 照りつける太陽。色鮮やかな極彩色の花が咲き、浜辺の砂はどこまでも白い。 そんな南国を思わせるこの場所は、ポケモンだけが住む無人島。 無人島、という言葉を聞けばこじんまりした島を浮かべそうだが、ここはかなり広大な面積を誇っており川や密林、草原のような場所も見受けられる。 この島は、特別な気候と環境によりポケモン達がスクスクと育っていた。 スクスクというよりは、ムクムクと言ったほうが良いかもしれない。 島の木々が実らせる果物はいずれも巨大で、栄養も豊富だった。 棲んでいるポケモン達全員分の食料として余裕で補えるばかりか、逆に栄養過多にしてしまうほど沢山あった。 そのせいで、この島にいるポケモン達は基本的に大型で、かなり丸々と太っている。 しかも一言に太っているといっても、ぽっちゃり等という生易しいレベルではない。 歩く度に腹が揺れる者や、柔らかい土だと完全に足型がつくほどの重量を持った巨体の連中ばかりなのである。 Chapter.1[バルン島へようこそ] ドスンドスンと、居眠りをする者のそばを通れば起こしてしまいそうな足音を立てながら1匹の巨大な風船が、 ある程度舗装された道を歩いていた。 巨大な風船というのは例えであって、実際は膨れたポケモンなわけだが。 『ヌシ』と多くの者に呼ばれる彼はその名の通り、島の主である。 全体的に黒紫色をしており、背中には潜水や飛行時に微調整をする小さな可変翼らしきものが数枚見られる。 ボンと膨れた腹部は薄い青を混ぜたベージュ色。腕は大きな翼であり、手がある。 ダークルギア、という呼称を持った潜水ポケモンだ。 島のポケモン達に呼ばれて浜辺へと向かっているのだが、何しろ「この体」であるので非常に時間がかかる。 一応、腹が地面に付きそうなほど太ってても飛ぶ事は出来るのだが、疲れるので彼は好まない。 ムニュっとした柔らかいお腹の感触を太ももに感じながらも、ダークルギアは先導するポケモン・・・これまた太い・・・バクフーンの後を追っていく。 「ひぃ、ひぃ、俺も年かな・・・もう疲れてきた。」 額の汗を拭いつつ、荒い呼吸をするダークルギア。実際はそこまで年はとっていないはずである。 「もー、ヌシ様は単純に太りすぎなんですってば。」 そう言うバクフーンも、かなり丸みを帯びている上に、大して早くは無かった。 手足は平均的なバクフーンの胴体ぐらいの太さがあったし、肝心のお腹はボールを飲み込んだみたいにまん丸だ。 ふさふさな毛並みも相まって、非常に温かそうに見える。 そんなバクフーンをして太りすぎと言わしめるダークルギアはどれほど異例のサイズか。 太った体とはいえ、1歩がそこそこ大きいダークルギア達は周りが思う時間よりは大分早く目的地へ到着した。 そこではキャンプファイヤーをしているように、ポケモン達が何かをグルリと囲むようにして集まっていた。 中央には、ぐったりと倒れこむ1匹のポケモン・・・リザードンがいた。 「あ、ヌシ様〜こっちです、こっち!」 ポケモン達がダークルギアに気づくと手を振ったりジャンプして呼んでいた。 その倒れているリザードンがいたからこそ、ここに呼ばれたのだ。 そのリザードンは、元から立派な太鼓腹を持った種族であるが、今はそのお腹が倍以上に不自然に膨れている。 水を飲みすぎているのかもしれないと思ったダークルギアは、バクフーンに指示を出してお腹を押して水を吐かせてあげた。 案の定、ピューピューと水鉄砲みたいにお腹に溜まっていた水が出てきたが、 ある程度出しても相変わらずお腹は大きいままだった。 とはいえ、この島にいるポケモン達はデフォでそのリザードンよりも巨大だったので誰も気に留めなかった。 「とりあえず、こんな場所に寝かせておくわけにもいかないな・・・どこか寝床へ連れて行こう。」 と、羽を伸ばして抱き上げようとするダークルギアだが、 体型的に余裕で届かなかったので他のポケモンたちが担いで連れて行くことになった。 (見た目以上にズッシリしてるなぁ・・・。) ◆◇◆◇◆◇◆◇ 草や葉っぱで作られた簡素だが柔らかなベッドで眠っていたリザードンだが暫くすると意識を取り戻した。 「ん・・・・。」 「お、気がついたかな。」 うっすらと目を開けたリザードンは静かに体を半分起こすと、キョロキョロとあたりを見渡す。 エメラルドのように綺麗な薄い緑の瞳をしており、なかなか珍しいと感じた。 リザードンは見知らぬポケモン達に取り囲まれてギョッと目を見開き驚いたようだが、少しすると安心したのかふぅと息をついた。 「かなり疲れてるみたいだが、大丈夫か?」 「あんた達が助けてくれたのか。ありがとう・・・って、デカΣ?!」 落ち着いて現状を認識する余裕が出来ると、ダークルギア達が非常に巨大で風船のような肥満体だったので思わず声をあげてしまう。 「っと、すまない。助けて貰ったのに失礼な事を言っちまった;」 「気にすることは無い。 体力が回復するまで、ゆっくり休んでいてくれ。腹も空いてるだろうし、木の実を置いておくから好きなだけ食べてくれ。」 「・・・いいのか?俺みたいな、よそ者に。」 「あぁ、好きなだけ居てくれて構わないぞ。」 「だが、俺が居たらきっと迷惑がーーー。」 と、その時ぐるぐるとダークルギアの腹の虫が鳴った。 「む、そろそろ昼飯時か。すまんが俺は一旦戻るが・・・ま、いろいろあるのかもしれないが、ここではのんびりしてくれ。 なんなら島を散歩しててもいいしな。」 そういって、ダークルギアはのっそりと立ち上がると(座っている時と大差ないのに驚きだ)自分のねぐらへと戻った。 途中、自分のお腹をつまんで「うーむ、以前より少し太ったっけなぁ」なんて言いながら。とはいえ、昼食を減らすつもりなだ全く無い。 どうするか暫く迷っていたリザードンはバクフーンに誘われて、島を軽く案内されることになった。 「ふぅー、ふー・・・(まだ、体が重いな)」 「アハハ、なんだ君ってば痩せてるくせに以外と体力が無いんだね。」 そうやって笑うバクフーンはリザードンの数倍はでっぷりと突き出たお腹をわずかに揺らしながら道を進む。 リザードンの体が重いのには理由があったのだが、それはしばらく後で知ることになる。 「あそこの岩の土台がカメックスがよく日向ぼっこしている場所で、そっちの果樹園ではいつもサイドンが土いじりしてる。 けど、子供連中に盗られていつも苦労してるよ。」 あちこち案内されて思ったが、この島はどうやらとても平和でみんながのんびりしているようだ。 そのスローペースと食料の豊富さが災いして、みんな太っているようだが・・・。誰もが笑顔だった。 リザードンは、助けて貰ったお礼をしてから島を出ようと思い、暫くここに留まる事にした。 居心地の良い場所が見つかるまで、島の代表であるダークルギアの所で世話になる事になる。 ーーーそれから、1週間が過ぎたーーー