あんなに運動神経も良くて、本来はスマートな種族にも関わらず ルカリオ師匠は、相変わらず太っていた。 けど弟子のリオルは彼の事を尊敬している 【よろず屋さん】 今日は、ルカリオ師匠と一緒に買い出しです。 買い物は楽しいんだけど、あまり師匠からは目を離せません。 なぜなら、言うまでも無いと思いますが師匠は見た目どーりの食いしん坊で。 必要のない食料まで次から次へと買い込んでしまうからです。 「ふーむ、オレンの実たっぷりケーキに、モーモーミルクケーキか・・・どれもおいしそうだなぁ」 ケーキショップ前で立ち止まる師匠。 すでに荷物には、袋一杯の食糧があるというのに。 「駄目ですよ師匠、ケーキなんて長持ちしないんですから」 「わかってるって」 頷くと、アゴがなんかムニュってなって、余計に肉づいてるように見える。 そういいつつも、師匠はテラスに座った。 「長持ちしないものだから、今食べちゃおう。ほら、リオルもそこに座って」 「えええ?!」 そ、その発想は無かった。まだまだ僕は師匠の食欲を過小評価していたみたい。 渋々リオルも席に着き、糖分の少なそうなケーキをメニューから選ぼうとする。 「お、期間限定のひんやりチョコムースケーキなんてのも美味しそうじゃないか」 師匠は、おそらく1個の注文ではすまないだろう。 結局彼は3種のフルーツケーキに、追加でチョコムースも食べてしまう。 リオルも、誘惑に負けてチョコムースを食べきってしまった。 「おいしかったですね、師匠」 「ああ、果肉たっぷりで歯ごたえもなかなか」 そういって贅肉たっぷりのお腹をさするルカリオ。 食べられたケーキは、彼の血となりお肉となるのだろうか。 「折角だから、あと何個か・・・」 「駄目ですって!ほ、ほら、他にも買う予定のものはあるんですから行きましょうっ」 リオルは急かすようにして、彼のぷにぷにした手を取る。 少々物足りさそうな顔だが、仕方ないかとルカリオは重い腰を上げて店を出た。 「さて、次はどこを周るんだったかな」 ぺろりと口元についた生クリームを舐めとり、ルカリオが目的を再確認する。 ちょくちょく本来の目的から脱線するせいだ。 「えーっとですね、ラッキーさんの所に行って包帯やバンソーコーを補充。カクレオンさんのお店でジャムを買って。 最後はバンギラスさんの所に行って、各種木の実と・・・嗜好品、ですかね」 師匠から渡されたメモ用紙には、おかしを沢山買う! という文章も書き添えられていたが控え目に言った。 日用品などを買い揃えると、最後はバンギラスのお店に向かった。 「ごめんくださーい」 店に入ると、バイトのチリーンが綺麗な鳴き声を奏でてリオルたちを歓迎する。 すると店の奥から巨大な影がぬぅっと顔を出した。相変わらず凄い迫力があって、リオルは半歩たじろぎそうになった。 「いらっしゃい、っとリオ助じゃないか。となると、あの大食らいも一緒だな?」 バンギラス店長は、ルカリオ師匠と知り合いだ。飲み友達ならぬ、食い友達で、お互い誘っては飲食店巡りをする事もあるとか。 元から巨大な種族とはいえ、彼の場合それだけじゃない。本当に巨大な超巨漢なのだ。 ガタイが良く、師匠よりも立派な体格をしている。悪く言ってしまうと・・・ちょっと、ううん。かなり、おデブ、かも。 なにせ、彼は自分が好きな物を食べたいがために、この店を構えているのだとか。 なので太って太って、頑丈な体つきは一緒なのかもしれないけど、お腹周りがスンゴイし、頬っぺたなんてぷにぷにしてて愛嬌もある。 こわいかお、をしてもちょっとマヌケに見えそうなぐらいだ。 (実際は体型から考えても迫力があって、怖そうだけど・・・) 「注文していたものを、取りに来たよ」 師匠が片手をあげつつ、挨拶をする。 「おう、ダンボール箱にまとめておいたから持っていきな。 持ちきれないだろうから、残りはペリッパー運送で後で運んでもらうわ」 「ありがとうバンギラス」 持ち運べないほどの食糧を注文していたとは、さすが師匠。じゃなくって、“また”そんなに買い込むんですか… 「そうそう、その他にも新しく美味しいもんが結構はいってきてさ、コレやソレなんかはオススメだぜ」 ふんふん、と興味津々に目を輝かせるルカリオ師匠。 食いしん坊コンビが揃うとリオルの手には負えなかった。 どれだけ注意喚起しても、うまい言い訳で返されることがしばしば。 なので、もうあきらめている。 結局、ルカリオ師匠とバンギラスはその後、店の奥に行ってたらふく美味いものを食べた。 リオルも、いくつかオススメの品を食べさせてもらったが微々たるものである。 「ふぃ〜、うまかったぜ」 「うん、それぞれ工夫されてて美味しかったよ。特にあのチョコレートコーチングされたパイは何個もお代わりしちゃったよ」 「・・・師匠、あれだけで8個も食べてましたもんね」 笑顔で、感想を述べるルカリオ師匠。うーん、本当に食べる事が好きなんだろうなぁ。 心なしか、バンギラスさんも師匠もお腹が大きくなって見える。 そりゃ1時間以上も休みなしで食べ続けたら、そうなるよね・・・ 【動かぬ者、動けぬ者】 満腹になったルカリオは、大きくなったお腹に苦戦しつつ、弟子と共に持ちきれないほどの荷物を持って自分の所に帰ろうとした。 しかし、帰り道。ポケモン達が集まって、立ち往生していた。 「どうしたのでしょうか?」 背が高くないので、いまひとつ状況が見えない。 「ふーむ、どうやら例のごとくカビゴンが通行の邪魔をしているようだね」 平均個体の倍以上巨大なカビゴンがグースカといびきをかいて眠りこけていた。 どーして、わざわざ道のど真ん中で寝るんだろう? 横道を通るなり、カビゴンをまたいで行くなりすればいいかもしれないが、そう簡単にはいかない。 小さいピカチュウ達はカビゴンの山のようなお腹をよじのぼったり出来るが、 体の大きいポケモン達は岩や謎の木に邪魔されて微妙に通り抜けれないし乗りこえれないのだ。 もれなく僕の師匠も“体の大きさ”により、その例に該当する。 しかも荷物を持っているのだから、なおさらだ。 「困りましたね師匠」 「ふーむ、他のポケモン達も通れないみたいだし、少し頑張ってみようか。 荷物を見て貰ってていいかい」 「え、構いませんけど…どうするんですか?」 師匠は、荷物を下ろすとカビゴンに近づいていった。 起こすためのポケモンの笛なんて当然持ってないし、何をするつもりなんだろう。 不思議に思いつつ観察していると、真ん丸なカビゴンの前で師匠は立ち止まった。 太ってなおかつ体も大きな師匠が並ぶと、カビゴンの巨大さが際立つ。仰向けに寝たカビゴンのお腹の直径は師匠の背を越えてい。 いったい何キロあるんだろ。 「よっし、それじゃあ気合を入れて・・・」 ムン!と掛け声をあげると、師匠はガッシリとカビゴンの巨大なお腹を両腕で捕らえ、力を籠(こ)め始めた。 え、嘘、もしかして動かそうとしてるんですか。 「師匠・・・?」 ざわ、ざわと周囲もどよめく。挑戦するだけで、持ち上がるはずはない。 と誰もが思っていたが 「む、ぐ、ぐぐぐ・・・!!」 ゆっくりと、岩石のような巨大な相手が浮かんでいく。 ルカリオは後ろにのけぞるような形で、自身のお腹と腕を支えにカビゴンを持ち上げてしまった。 「よ、っこい、しょ!!」 ズン、ズン! と1歩移動するたびに大地が響きをあげる。そして・・・ ドッズゥウウウウ!!!!! まるでビクともしなかったカビゴンを、持ち上げ広い道まで運び、降ろした。 「ふぅー。つ、疲れた・・・」 肩をポンポンと叩くルカリオ。そして、しばし呆気にとられていた周囲のポケモン達からワッと歓声が上がった。 「凄いなアンタ!見直したよ!」 「おかげで通れます、ありがとう」 「ただ太っているだけと思っていたら、カイリキーですら手を挙げたあの巨大カビゴンを動かすとは・・・」 しかし師匠は謙遜して、自分も重いから馬力が出たんですよ、と笑って答えていた。 「さすが師匠だなぁ」 僕はというと、素直に尊敬していた。ただ力任せに持とうとしたって、無理だったはず。 けど師匠は相手の重心を捉えて、更に自分の重量もうまく使ってバランスを保って持ち上げていた。 ただ食っちゃ寝してるだけの昼行灯とは違う! やっぱり、師匠は師匠なんだっ。 キラキラ目を輝かせながら、リオルはヒーローのように周囲からもてはやされる師匠を見ていた。 あはは、師匠ってばあんな体型なのにみんなから褒められてる。いっぱい物も貰っているみたいだ。 ・・・ちょっと、貰いすぎじゃないかなぁ? っていうか、ほとんどが食べ物のような。 なんだか、嫌な予感がしてきた。 リオルの予感は当たった。立ち往生していたポケモン達はほぼみんな巨大なポケモンや荷物持ち。 だから、多くのお礼を貰う事が出来るわけだが・・・ルカリオ師匠は“誰が見ても大食らいと判別される程度”のお腹っぷり。 そこでみんなからプレゼントされたのは、お菓子とかフルーツとかパンとかケーキとかチョコレートとかドーナッツとか・・・ 「師匠!そろそろ戻りましょうっ。これ以上は荷物持ちきれませんし・・・」 「ん? そうか、ではみなさんありがとう」 ホクホクの戦利品を抱えて、ルカリオは福の神様を連想させるような(おもにほっぺたが)笑顔で荷物と貰った食べ物を巨大な袋に背負い、去っていった。 ちなみに貰った戦利品(たべものたち)は、いずれも日持ちしないもので、捨てるのも勿体ないと師匠はこれでもかというぐらい食べまくった。 食べて食べて、食べて食べて食べ過ぎて。 「師匠、ボク先に寝ますね。お休みなさい・・・」 「もぐもぐ、あぁ、お休み」 リオルが眠りに付く頃にもまだ何か食べ続けていて。 そんでもって翌日… 「師匠、朝ですよ〜、ってうわぁ!!?」 部屋に行き扉を開けると同時に声をあげてしまった。 どでーんとした巨体が視界に入る。えーと、この巨大な大福餅はなんでしょう 「ふぅ、ふぅ、ごめんよ、今日の稽古は、自主的な、基本稽古ってことで、うぷ」 「師匠のバカー!なんで、そんなになるまで食べるんですかっ」 わーん、って泣きながらポカポカと師匠のふくよかボディを叩く。当然ながらノーダメージだ。 すっかりカビゴンと化した師匠。バンギラスさんの所であんなに食べた後、追加で食えばそりゃそうだよね・・・ 「ごめんごめん、なんとか起きようとしたんだけど、お腹がつかえちゃって」 アハハってのん気に笑うルカリオ。結局、買い出しと翌日の二日連続でリオルは稽古が出来なかったんだとか。 【師匠と体重計・その1】 ある日の事・・・ 「師匠、そういえば今は体重どれぐらいあるんですか?」 じーっと、細目で師匠を見てみる。なんだか、やっぱり昔よりボリュームアップしている気がします。 「うーん、別に体重に拘ってないからなぁ。最後に量ったのいつだっけ」 「そんなだから、ますます太っていくんですよ! まずは己の事を知る事が大事だ、って師匠前に言ってたじゃないですかっ」 そう言って、あらかじめ準備していた体重計をドンと置いた。 倉庫でぐっすり寝ていた体重計君はホコリが被ってて可哀想。 「別にそこまで重くないと思うけどなぁ」 ドン、と体を台に乗せる。途端、ギュン!と凄い勢いで‐‐それこそ相当な動体視力が必要なほど‐‐アナログな針が動いてピタリと止まった。 「ん? なんだ、たった86kgじゃないか、これなら太り気味程度でそこまで気にする事はないさ」 「ちょ、ちょっと待ってください!いま絶対針が周回しましたって!!?」 「そうだったかい?」 あぅう、迂闊だった。やっぱり今の時代って、デジタルじゃないと駄目なんだ。 リオルは耳をペタンと折って落ち込んだ。師匠が自分の太り具合を自覚させる手段、無いかなぁ・・・ 彼が頑張る事は稽古だけじゃないようだ。 【師匠と体重計・その2】 また、ある日の事・・・ 「やった、ようやく手に入れる事が出来ました・・・!」 ねんがんの、デジタル体重計。 これなら、ドーンって自身の体重を見せつけれるはず! お腹が邪魔で数値が見えないんだけど、という台詞はすでに脳内シミュレーションで予測済みだったのでモニタは別のPCで表示されるように調整済み。 しかも相当の重量にも耐えられる安心設計! 「師匠っ、ちょっと体重計をまた量ってもらいたくて!」 意気揚々(ようよう)と師匠の部屋に入る。すると、大きな背中がふたりぶん見えた。 そういえば、バンギラスさんが遊びに来ているんだった。 「ん? お〜、リオ坊、丁度よかったお前さんにも試食してもらいたいと思ってたんだ。 子供が一番素直に感想を言ってくれるからな」 「ええっと、なんのでしょう?」 長く準備していたせいで、師匠たちが部屋にこもって何をしていたか、そういえば知らない。 5時間ほど前にでっかい荷車を運んでバンギラスさんがやってきたみたいだけど・・・ 「うっぷ、今月の新商品さ、どれも旨いぜ〜」 「私はこのチョコレートに生チョコレートを入れて、更に外側が焼きチョコになっている3重構造のが好きだな」 やけに背中が広く見えたが、気のせいではなかった。 「し、師匠達、そ、その姿は!?」 6時間ずーーーっと新商品を食べ続けていた彼らの体は、それはもうギャグと思えるぐらい膨れ上がっていた。 バンギラスさんなんかは、元からの巨体も相まって信じられない体型になっている。 師匠のお腹もはち切れんばかりの風船状態… 「そんで、リオ太郎は何しに来たんだったっけ?」 相変わらずバンギラスさんは僕の名前を呼ぶときはテキトウだなぁ・・・ 「え、えっと、その体重を量ってもらおうと思って」 「お、そーなのか。それじゃ暫くぶりに俺も量ってみっかな〜、どっこいしょっと!」 メチャクチャ重そうな体を起こして、バンギラスさんが立ち上がる。 両脚でしっかり大地を踏みしめ・・・て、いない?! お腹が思いっきり床に設置しているせいで、3点倒立ならぬ、3点直立になってるーー?! 「げふっ、流石に食いすぎちまったか。まぁ、その分の体重を差し引いて考えりゃーいいよな」 のっそりのっそりと、怪獣ポケモンらしいといえばらしいが、無駄に重量感のある動作でバンギラスは体重計に向かい・・・ そして体を乗せ・・・ メキ、ビキ、バキバキ、ズシィイン!!! 破滅的な音を響かせながら、体重計は見事に割れてしまった。 「ええー!?」 「お、おぉっ?!わりぃわりぃ、子供用の体重計だったか?」 「そんなわけないですよー!」 ぅう、折角のチャンスが・・・師匠もそうだけど、その友達も相当に太っているのは問題なのかもしれない。 類は友を呼ぶというし、そればかりか影響を与えて太っちゃうって聞くし・・・ バンギラスさんも、そのうちダイエットさせなくちゃ! ふくつのとうし、のおかげでリオルはメラメラとヤル気を増やした。 彼の孤独な奮闘はまだまだ続きそうだ。 余談であるが、お詫びにと置いて行ったお菓子を食べたリオルも体重が300gほど増えてしまったんだとか。 一方のルカリオ師匠はというと、懲りもせず腹いっぱいのご飯を食べる毎日を繰り返しているという おしまい