デスモア(ドラゴン):デブカフェの虜になり、自らも太りすぎて会社を首になった赤竜。デブカフェに努めるようになり、破竹の勢いで体を膨らませている。 デブカフェでの生活も大分楽になっていった。 まぁ、元からたいした苦労は無かったのだが・・・とデスモアは苦笑いする。 デブカフェに努めてからは、ますます太り始めてきたが、一定以上太れば後は大差ないよな。 ある日の事、デスモアが職場でいつものように仕事(しょくじ)を続けていると、部屋の電話が鳴った。 「お客さんの指名が入ったから、準備しておいてね。」 「もぐもぐ、ゴクン。了解」 どうやら初来訪のお客さんらしい。レベル2にくる資格は本来持っていないはずだが、たっての願いでここを希望したらしい。 なんでだ? と不思議に思っていると、部屋のノックが鳴った。 「失礼して、よろしいかな?」 「あ、どうぞ」 意外にも、男性客のようだ。しかも、部屋に入ってきたのは初老の竜である。 随分珍しい・・・というか初めてのパターンだ。 その老竜は、自分の姿を見て少しばかり目を丸くして、感嘆の声を漏らした。 「おぉ、お・・・間近で見ると、本当にうり二つじゃ」 「ん、な、何がだ爺さん? ---あ、いやお客さん。」 珍しい客に対して、思わず営業の事を忘れてしまう。 状況がよくわからない俺は、とりあえず話を聞くことにした。 どうやらこの爺さん、店に用事があったわけではなく、俺に会いたかったらしい。 なんでも、孫に瓜二つだったんだとか。・・・亡くなったお孫さんに。 「で、俺がここの店で働いてると知って来てくれたってわけか」 たいていの客は、肥満ドラゴン独特の軟質な肌触りや豪快な食べっぷりを目的でやってくるから、こんなパターンもあるんだなぁと俺は感心していた。 「そんなに似てるのか?俺。こんな体型だけどさ」 自分で言ってておかしくなった。久々に体型を再確認したら、腹は妊婦以上だし、脚は閉じれないし、腕はだぶついて二の腕にたっぷり肉がついてるし、首周りなんて子供のウエストぐらいあるんだもんな。 「うむ、流石にもっと小柄ではあったが、ほら、これが孫の写真だ」 そういって差し出した写真は、確かに自分にそっくりだった。 子供にしては相当太っており、将来は相当立派な体型になっていたかもしれないな・・・なんて思えるぐらいだ。 「あの不幸な事故さえなければ、、、今頃は家族皆で、幸せに暮らせていたのかもしれんのになぁ」 遠くを見つめる老竜の姿は、とても寂しそうで、今にも消えてしまいそうなぐらい希薄に見えた。 家族旅行に出かけた老竜の孫だけでなく、彼の息子夫婦までもその時に失くしてしまったそうだ。 事故によって洞窟に閉じ込められてしまい、救助も間に合わず、全員が栄養失調に倒れたり、餓死をしてしまったらしい。 「苦しかったろうに・・・先の短いわしだけを置いて、みんな逝ってしまった。 だが、あんたを見て、幸せになった孫の姿を見れたような気がして、少しだけ気分が晴れたよ。ありがとう」 「そう、か。 なぁ爺さん、それなら俺が空腹で死んでいったあんたの孫の分も、家族の分も食べてやるよ」 我ながら、バカっぽい発言だなぁ、と思ったが、この不幸な老竜の為に何か出来る事は無いかと、発言してしまった。 「いや、ほら。天国にいるあんたの家族たちにご馳走するつもりでさ。やっぱ駄目かな」 そうだよな、俺が食ったところで意味ないよなぁ。 「---ありがとう、優しいのだな君は。 しめっぽい空気にさせてすまなかった。それじゃあ孫が大好きだった料理を注文するとしよう。年よりの長話で、君も空腹にさせてはいけんからな」 「お、おう!任せとけ、それが俺の仕事だからなっ」 グゥ〜〜、と先に我慢しきれずに鳴り響いたお腹の音が恥ずかしくてデスモアはちょっと顔を赤くした。 そんな彼の様子を見て老竜は、優しい笑みを漏らすのだった。 彼の孫は典型的なお子様舌(子供だから当然か)だったもんだから、ファストフードやハンバーグ、チーズにポテトチップス、ジュースにケーキにアイスに・・・とにかく甘いものや太りやすいものばかりが好物だったようだ。 俺はとにかくじゃんじゃん食ってやる! なんて約束したもんだから自分のペース以上に食べて食べて食べて食べて・・・・たべてたべてたべて・・・食べた。おそらく2,3日分はあろうかという量を食べきった。 「ぐふ!う、ぅううっ!!はぁあっ・・・んんん・・・!!」 未知の領域に到達した俺の胃袋は危険信号を放ち続け、腹の方はこれでもかというほどパンパンに膨れ上がってしまった。 「だ、大丈夫かね?」 「あ、あふっ、ふぅっ、ふぅ!げっぷ!! ちょ、ちょっと調子に乗りすぎたかな。へへっ・・・満腹だよ、爺さん」 「そうかそうか。よく食べたのう・・・」 ニッコリと、柔らかい笑顔を見せた老竜は孫の事も思い出しながら、優しい竜のお腹を撫でてあげた。 「ふぅー・・・ふぅー・・・ありがとな、ちょっとずつ、楽になってきた」 「わしの孫も、よく食べ過ぎてはこうやって寝込むことがあったな、はは」 ゆっくりと、花を愛でるような優しさで、彼は風船みたいなデスモアを撫でつづけた。 なんだか、くすぐったいが、不快ではない。 なんつーか、親に頭を撫でてもらってるみてぇだ。眠くなってくる。 「――-また、遊びに来ても良いかのう」 一時の過ぎない幸せを再確認し、笑顔が消えた老竜が、ぽつりと呟いた。 「はぁ、はぁ、、、、うっぷ、いいぜ。いつでも歓迎する」 デスモアも、すっかり老竜に心を許し、リラックスできるようになっていた。 それから、定期的に老竜は彼の元に遊びに来ては、沢山のご馳走をプレゼントしたり、家族との思い出話を楽しそうに語った。 「ぐっぷ、今日も、食いすぎちまったかな。げふっ」 爺さんが喜んでくれるもんだから、調子に乗っていつも以上に食うんだよなぁ。 うへ、すっげぇ腹してるわ今日の俺。 しかも、そんな日に限って積極的な常連客達がデスモアの元へやってくるのだからたまったもんじゃない。 「デスモアさん、はい、あーん!」 腹はいっぱいなのに、とびっきり分厚いステーキ肉のセットを食わされる。 「もう、食べる口が止まってる!」 とか言われては新しい客に差し出されるフライドチキンは15本目。 「今日は一段とまた立派なお腹なのね♪」 そう言って高価な宝玉を撫でるかのように、デスモアのお腹を愛でながらも攻撃(食事攻め)の手は緩めないドSな彼女。 この日ばかりは、本当にお腹が爆発するんじゃないかと思った。 「ぐへぇええああっぷ!!!や、やばっ、は、は、腹がっ、はひっ、ひぃっ・・・!!」 ぷるぷると小刻みに震える体。さすがに本当にパンクすることはありえないのだが、そう思ってしまうぐらい彼の超極大風船腹はガスタンクのごとき巨大さを誇っていた。 翌日になっても、お腹はおさまるところを知らず、しかも昨日の自分の体型や過食状態に満足した客が再びやってきて、大変な事態になった。 「ふひぃっ、はひぃっ、、、ひっ、ふぅっ、ふううっ・・!!!///」 息を乱しつつ、ソファーから完全に起き上がれなくなったデスモア。 腹の両脇は完全に両脚を圧迫してしまっている。 そんな状態なのに、間髪入れずに内線の音が鳴る。 「デスモア、お客さんがきたみたい。連続で大変かもしれないけど、よろしくね」 今月の給料には期待できるが、やばいってこれ、ちょっと、本当に、待ってくれ! コンコンとノックの音。仕方なく俺は入室の許可を震える野太い声でなんとか出した。 「ど、どう゛ぞ」 首をなんとか動かしてみると、あの老竜であった。 「だ、大丈夫かねデスモア君?」 「げふっ、わ、悪いじいさん、おれ、今日はちょっど食えそうにないわ――-Σう、うっ、うぅうっぷ?!」 俺が、孫や家族の分まで食べまくってやる、と言っていたからがっかりするだろうか。 少しばかり胸が痛んだ。でも、今は本当にもう無理。パンク寸前。 もう 見 事 に パンッパン!なわけで。 だが予想に反して、老竜はいつもの柔らかい笑顔を見せてくれた。 いや、いつも以上に嬉しそうに、自然に笑っている。 「いいんだよデスモア君。 ――-そんな風に、満腹になっている姿を見れるだけで私は幸せな気持ちになれる」 「そ、そうなのか?」 「ああ、君のおかげで本当に孫が帰ってきたみたいな気持ちになったよ――-心から礼を言う」 「つっても、俺は話したり食ってばかりだったし、性格も似てないだろうしさ」 そんなことはないさ、と老竜は首を振る。 「実は今日は、別れの挨拶をしておこうと来たんだ」 突然の言葉に、デスモアは動揺した。 「な、なんだよ急にどうしてだ?」 俺じゃ、やっぱり代わりにはなれなかったんだろうか。 「過去を思う事も大切だが、今や未来をないがしろにしてはいけないと思ってね。」 「そ、そう・・・か」 なんだか寂しい思いはあったが、爺さんがそれでいいっていうなら、俺に止める権利はないよな。 「――-君を、孫の代わりとして接するのは終わりにしようと思う。」 続けて老竜は言う。 「これからは、普通に話し相手として、友達として、会いに来るとするがいいかね」 「へ?」 予想もしていなかった老竜の言葉に、デスモアは間抜けそうな声を出した。 「あ、ああ。もちろん構わないぜ」 「――-ありがとう」 そして老竜は、今までで一番優しい顔をデスモアに見せるのだった。 ――-ここには、本当にいろんな客が来る。 ちょっぴり大変な時もあるけれど、俺はこの仕事が合っているな あらためてデスモアは思うのだった 部屋に帰って、仕事でも馬鹿程食べた胃袋に夜食を詰める。 あ、また太ってきたかも 自分の以前にも増して突き出たお腹を擦りながら、デスモアはつまみに伸ばした手を戻さなかった おわり