『ジェレミア・ゴットバルトの落涙日記』 ○月 ×日 △曜日  その日はいつものように始まり、いつものように過ぎていき、いつものように終わるは ずだった。事実、朝起きて洗顔し、歯を磨いてから食事を摂るまではいつも通りだった。 何の変哲もない日常だった。  事の起こりは、同居しているアーニャが私のために淹れてくれた食後のコーヒーならぬ 紅茶を口に含んだ時だ。  この日記には、この日起こった出来事の全てを余すところなく書き込んでおこうと思う。 後世、もしこの日記を発掘し読破した人間がいたら、ぜひ熟考してもらいたい。そして、 どこかで生きているかもしれない私に教えてほしい。  いったい、私の何が悪くてこのような事態になってしまったのかを。  アッサムのふくいくとした香りを楽しんでいると、突然ドアチャイムが鳴らされた。こ の時間に訪問者など珍しいと思いつつ席を立とうとすると、アーニャが先に立ち上がった。 「私出る」 「そうか、では頼む」  頷きを返して、浮かせかけた腰を再びイスに沈め、私は紅茶のカップを手に取った。も う一口飲んだところで、何か言い争うような声が聞こえてくることに気づく。 「?」  何事かと思ってカップをソーサーに置き、玄関へと向かうとこちらに背を向けて立って いるアーニャともう一人、別の人物がドアの陰に仁王立ちしているのが見えた。近寄って 確認し、思わずその名を声に出す。 「枢木!? 何故ここに!?」  私の呼び掛けに応えてこちらを見たのは、ルルーシュ皇帝陛下からゼロを引き継いだ少 年、枢木スザクだった。ゼロの装束ではなく、普段着に身を包んで変装のつもりかダサイ サングラスをかけている。  彼はこちらに気づくと、ニコリと笑った。次には、つられて笑ってしまう私にとんでも ない発言をする。 「ジェレミア卿に会いたくて……来ちゃいました」 「来ちゃいました……って、そんな軽いノリで来ていいのか? だいたいからしてナナリ ー様はどうした。護衛するはずのゼロがここにいていいのか?」 「大丈夫です、許可は取ってますから」  にっこり笑顔で言う枢木の隣でアーニャが小声で「余計なことを……」とこぼすのが聞 こえた。アーニャはナナリー様と懇意にしているようだが、だからといって「余計な」と は何事か。後で説教せねばなるまい。  そんな風に思っていると、枢木の後ろから何者かが顔を出した。仰天していると、独特 の間延びした声が私を呼ぶ。 「ジェレミア卿〜、僕も来ちゃいましたぁ」  あーはぁ、と、語尾にハートマークが付きそうな口調でそう言ったのはロイド・アズプ ルンド伯爵だった。長身を屈めて、眼鏡の奥の不穏な光を放つ瞳で私を見つめてくる。 「な……何だ、その目は」  たじろぐ私に向かって、ロイドは言った。 「いえね、改造させてもらえないかなぁ〜……って思いまして」  ……はあ? 「改造って……何をだ」 「ジェレミア卿を、ですよ」  素朴な疑問を口にした私に答えたのは枢木だった。心底呆れているような目をロイドに 投げかける。しかし私はといえば、それどころではなかった。新たに湧き出た疑問を顔中 に張り付けながら、ロイドを見る。 「私を……? なぜだ」  するとロイドは何でもないことのようにこう返した。 「好きだから?」  何で疑問形なんだ!!  唖然とする私をよそに、ロイドは続ける。 「いやぁ〜、実を言うとジェレミア卿を一目見た時から改造魂に火が点いたというか、体 をイジリ倒したくて仕方がないんですよねぇ〜。これっていわゆる、恋ってやつですか?」 「知らん! 私に訊くな!! というかそれはただのマッドサイエンティストというやつ ではないのか!?」  ジリジリと下がりつつ反論する私の前に、アーニャが進み出た。私を守るように右手を 伸ばしながら、振り返る。 「大丈夫、ジェレミアには指一本触れさせないから」 「アーニャ……ッ!」 「ジェレミアに触れていいのは、私だけ」  ……ん? 「ダメだよ、アーニャ。ジェレミア卿にあんなことやこんなことしていいのは僕だけだよ」 「何を言っているかぁ!」  アーニャの妙な物言いに首を傾げている間に放たれた枢木の言葉を全力で否定したとこ ろで、玄関に新たな人物が登場する。 「間違っているぞ、二人とも!」 「そ……そのお声は!」  驚愕する私の前に現れたのは、何と……! 先頃ゼロに討たれて崩御されたはずのルル ーシュ皇帝陛下だった。燦々と降り注ぐ陽光を全身に浴び、キラキラと輝く姿で悠然と歩 いてくる。  何と……何と、お美しい!!  しばし見とれていた私は、ハッと我に返ると陛下の面前に躍り出た。そのまま、ひざま づく。 「陛下、お久しゅうございます……!!」  今にもひれ伏さんばかりに挨拶をした私に、陛下は「うむ」とお応えになられた。そし て私の目の前で立ち止まられると、私に向けて笑みを投げかけられる。 「久しぶりだな、ジェレミア……息災にしていたか?」  おお……陛下が私を気にかけて下さるとは! 何たる僥倖! 何たる幸運! お隠れ遊 ばしたはずの陛下がなぜここにいるのかとか何で皇帝服ではなく学生服なのかとか、そん な疑問など吹き飛んでしまうほどの幸福感!!  私は感激のあまりホロホロと涙を流した。しかし横合いから飛んできた枢木と陛下との やり取りを聞いて、凍りつく。 「ルルーシュ……何が間違っているというんだい?」 「愚問だな。ジェレミアにあんなことやこんなことをしていいのは俺だけだ……というこ とだ」  陛下ぁぁぁぁぁ!? 「何をおっしゃっているのです!? そのようなお戯れを口にするべきではありません ぞ!」 「そうですよぉ、陛下。ジェレミア卿を改造していいのは僕だけですから」 「お前も違うわぁ!」  眼鏡を光らせ阿呆なことを言うロイドを一蹴して、荒い呼吸を繰り返した。ゼイゼイと 肩で息をしていると、背後から声がかかる。 「お疲れのようですね、ジェレミアさん。肩をお揉み致しましょうか?」 「おお……かたじけない。では頼むとしよう…――」  か、と、振り向いた先にいた女性を認めて、私は目を見張った。 「さ……咲世子?! なぜここに?」 「ジェレミア卿争奪戦が始まったと聞いて、飛んで参りました」 「そんなもの始まっていないし、そもそもどこでどうやって知った? そんなこと!」 「篠ア流……ですから」  キミはそれを言っていればたいていのことはごまかせると思っていないか?  あんぐりと口を開ける私に、けれど咲世子は無表情のままチラッとスカートをめくる。  いったい、何をしているのか?  思った私に咲世子は、 「忍法、お色気の術です」  さらっと言ってのけた。  ……お色気の術って。  がっくりと肩を落とせば、後ろで陛下が「なかなかやるな……さすが天然」と呟いた。  陛下、それは間違っています。  ツッコミもままならないまま、私は口をパクパクと開閉させた。それを見て、アーニャ がぽつりと呟く。 「鯉みたい」  そして、それに呼応するようにしてロイドが言った。 「なるほど、じゃあ次はマーメイド風に改造しちゃいますか」  マーメイドって!?  驚く私を無視して、陛下と枢木が口々に「それはいい」「ナイスアイディアです、ロイド さん」などと拍手を送る。  いやいやいやいや、ちょっと待て!  私は混乱する頭を片手で押さえて、空いている方の手を五人に向けて突き出した。 「…………まず、一つ確認したいのだが……争奪戦と銘打つからには、貴様たち……いや、 あなた方は、私のことを……?」  陛下がいらっしゃるゆえ、二人称を直して訊いた私に、五人はつと顔を見合わせると次 には私を一斉に振り返って声を揃えた。 「好きですとも」  何と……! 「そ……それは、気づかなんだ。何ともすまないことをした」 「いいんです、ジェレミア卿。僕の愛を受け取って下されば、全てチャラです」 「待て、スザク! ジェレミアを脅迫するな! こいつは俺のモノだ」 「かつての主にこんな口を利くのは如何なものかと思いますが……ルルーシュ様、モノな どという言い方はジェレミアさんをまるで品物のように扱っていると受け取られますので、 控えた方がよろしいかと」 「む……言うじゃないか、咲世子」  陛下がお顔をしかめられたところで、また闖入者が現れた。 「ジェレミア卿!」  勢い込んで走ってきたのは、ヴィレッタだった。長い髪を左右に揺らして、一目散に私 のところまで駆けてくる。その体を抱き止める前に、アーニャと枢木が私の正面に出た。 まさか、ヴィレッタを敵と認識して守っているつもりになっているのだろうか。いや、ま さか。 「ジェレミア卿……」 「どうしたのだ、ヴィレッタ! 確かキミは扇とかいう男の元に嫁いで、子どもまで生ん だのではないのか? なぜ、ここに?」  何かあったのかと身を案じた私に、ヴィレッタは事もなげに言った。 「いえ、軽い里帰りです」 『軽い』里帰りって何だ!?  唖然とする私にはお構いなしに、ヴィレッタは続ける。 「要ときたら、口を開けば『ああ』『うん』『お前に任せる』の三言ばかり……いい加減い やになったので、帰ってきました」 「いや、ここは実家ではないのだが……というかあの男、ヴィレッタを幸せにするならと もかく、そんな苦労をかけていたのか! 許せん!」 「いいんです、ジェレミア卿。こうして帰れる所もあるわけですし。あ、ちなみに子ども は千葉に預けてきましたので、大丈夫です」 「いやだから実家ではないって……」  呆れる私を横目に、陛下があごに手を当てて「ふむ」とうなる。 「それにしてもアレだな、『ああ』『うん』『お前に任せる』の三言ばかりなどと妻に愛想を 尽かされる夫の典型だな、扇は」 「いっそ、改造しちゃいますぅ? 彼にあんまり興味ないから、あまり保証はできません けど」  保証って、命のか? それとも、姿形か? 「結構です。ロイド伯爵に改造されて、不能になられても困りますから」  ヴィレッタ……! 何とはしたないことを!!  一人あわあわしていると、ヴィレッタがこちらを振り向いた。 「それで? これはいったい何の集まりなんです」 「それは私が訊きたいとこ」 「もちろん、ジェレミア争奪戦だ」  私の台詞に被さるようにして、誰かが答えた。  ……この、懐かしい声は……まさか!  はっとして振り返った私の目に映ったのは。 「……キューエル!」  降り注ぐ陽光に半身を陰にして、軍人の職業病とも言える規則正しい靴音を響かせなが ら、キューエル・ソレイシィがこちらに向かって歩いてくる。  ……って、ちょっと待て! 貴様死んだのではなかったか?  唖然とする私の横でヴィレッタが、 「お久しぶりです、キューエル卿」  さらっと軍人式の敬礼をする。  待て待て待て! 何でそんなに自然体なんだ!!  焦る私を尻目に、枢木、ロイド、陛下、咲世子、アーニャ、そしてまた陛下の順で、 「キューエル卿、ご無沙汰してます」 「あはぁ〜、お久しぶりです」 「誰だ?」 「存じません」 「ジェレミアの戦友」 「ああ、成田にいた奴か」  などと口々に言い合う。 「だから待てというに! 何で誰もキューエルが死んでいることにツッコミを入れんの だ!! おかしいだろう、死んでいる人間がここにいるなどと!!」 「俺も死んでいるのだが」 「へ……陛下はよいのです!」 「何だ、差別か貴様! 理不尽だな!」  プチ・パニックになっている私に、キューエルが眉間にしわを寄せた顔で唾を飛ばす。 しかしそんなもっともなことを言われても、混乱状態にある私には対処できようはずもな い。 「死んだ人間がいることをおかしいと言って何が悪い!? それとも貴様は自分がここに いることに何か正当な理由づけをできるのかっ?」  するとキューエルは自信たっぷりに言った。 「フッ……愚問だな、ジェレミアよ。私が、殺されたくらいで死ぬと思っているのか!?」  ………………。 「何を言っているのだ、貴様はぁ!!」  理不尽どころか支離滅裂なことを言うキューエルに憤慨した私だが、ヴィレッタは 「さすがです、キューエル卿」  などと言い、枢木は 「自分にも『生きろ』ギアスがかかっているのでできそうな気がします」  なんて無茶なことを言い放ち、そしてロイドは 「ぜひ解剖して調べてみたいものだねぇ〜」  と、返し、次いで咲世子が 「これも死んだことに気づいていない的な意味で『天然』というやつなのでしょうか」  と言えばアーニャが 「これは、ゾンビですか」  などという、どこかで聞いたフレーズを淡々と放ち、陛下に至っては、 「……俺もさっきそう言おうと思っていた」  という、何とも子どもじみた悔しさをにじませた顔で私を見た。 「そんな顔で私を見ずとも、陛下のおっしゃりたいことは分かります」 「また差別か……ジェレミアよ、前々から言いたかったのだが貴様ルルーシュとかいうこ の小僧に甘すぎやしないか?」 「あ、それは私も思っていました」  キューエルの失礼極まりない発言に同意して、ヴィレッタが続ける。 「だいたいコイツの正体は憎きゼロだというのに、ジェレミア卿はマリアンヌ様への忠義 の延長でこの男を甘やかしているのです。いいですか? ジェレミア卿。マリアンヌ様を 葬ったのはこの男とくるる…――」 「おおっと! いけない、手が滑ったぁ!」  言うが早いか、枢木がヴィレッタの口を右手で塞いだ。次いで、陛下が普段からは考え られないほどの尋常でない素早さでヴィレッタを縄でぐるぐる巻きにする。  その縄、いったいどこから……。  疑問も冷めやらぬ間にヴィレッタの口を改めてガムテープで塞いで、二人は輝かしい青 春の汗にまみれた顔を見合わせた。 「これで良し、と。それにしてもルルーシュ、キミ意外と動けるね」 「無印版21話『学園祭宣言!』と、R2の13話『過去からの刺客』でも俺の素早い動 きが見られるぞ」  アニメキャラとして言ってはいけないこと(自分がアニメのキャラであると自覚してい る発言)を言い、陛下は思い出したように付け加える。 「ふ……俺とお前、二人なら、できないことはない」  おお……あの名台詞を生で聞けるとは!  しかし感動も束の間、不穏な空気が二人を包む。陛下と枢木は互いに見つめあったまま しばし黙すると、やがてゼンマイ式の人形のような動きでキューエルたちを見回した。 「……なあ、スザク。この作戦、いけると思わないか?」 「うん。こうやって一人一人縛り上げていけば、ライバルが減るね」  実力行使宣言!? 「では、ここは一時休戦ということで」 「異論はないよ」  勝手に協定を結んだ二人に、他の四人が身構える。じりじりと、間合いを延ばしそうと して後ずさる。  陛下と枢木が我が家の側に立ち、なぜか私を挟んで咲世子、アーニャ、ロイド、キュー エルの四人が一定の間隔を空けて二人と対峙する。  緊迫感をはらんだ構図が出来上がったところで、陛下が言った。 「どうだ、咲世子。かつてのように私に与するというなら、とりあえず縛り上げることは 勘弁してやるが」 「ダメだよ、彼の言うこと聞いちゃ。あの人当代きっての嘘つきなんだから」  ロイドがこそりと咲世子に耳打ちする。咲世子はジロリと陛下を睨みつけ……  次の瞬間にはひらりと跳躍して陛下の隣に陣取ると、残りの三人に向き合った。  そうか、キミは一度主君と定めたお方に最期の時までお仕えするという武士道精神を貫 くか……(ホロリ)。 「裏切ったな、……えー……あれは誰だ」  キューエルが今さらな質問をロイドに投げかけ、それに彼が「ルルーシュ皇帝陛下お抱 えのNINJAですよぉ」と答えている間に、行け、という陛下の名を受けた咲世子がま ずはアーニャに向かって走り出した。 「!」  アーニャが姿勢を低くして迎えうとうとする。  だが、咲世子の逆手に構えたクナイがアーニャに辿り着く寸前、私は二人の間に割り込 んでいた。  ガキィィ……ンッッ。  軽快な音とともにクナイがはじかれる。 「!! ジェレミアさん!」 「ジェレミア、何をしている!」  咲世子と陛下が声をあげ、枢木が気色ばんだ。ロイドとキューエルは、ともに目を丸く している。  私はゆっくりと全員を見回し……  そして、落涙した。ボロボロと、目から止めどなく涙があふれてくる。 「どっ……どうした、ジェレミア!」  真っ先にうろたえたのはキューエルだった。私の元まで走り寄ってくると、ためらいが ちに手を伸ばす。 「なぜ泣く」  その言葉に呼応するように、他の皆も歩み寄ってきた。ヴィレッタなどは、縛られたま ま芋虫のように這ってくる。  私は皆の顔を順繰りに見てから、さらに涙を増量させた。えぐえぐと、みっともなく嗚 咽をもらしながら、それでも何とか答える。 「……みんな、どうして争うのだ……なぜ仲良くできない? せっ、せっかく、陛下のご 勇断と枢木の覚悟、そしてロイドたちの協力のお陰で世界が平和になったというのに…… ……なぜなんだぁ」  あたりは静寂に包まれた。シン、と静まり返って、誰も私の嘆きに答えをくれる者はい ない。  しばらくそのまま時間が過ぎて……  やがて、キューエルがため息交じりに呟いた。 「やれやれ……しょうのない奴だ、貴様は」 「全くですね。まあ、そこが可愛いんですけど」 「スザク、年下に向かって『可愛い』という表現を用いるのはどうなんだ」 「ルルーシュ様も以前『ジェレミアは可愛い』とおっしゃっていましたが」 「あはぁ、言われちゃいましたね、陛下」 「……キモイ」 「むぐぐ……むごっ」  それぞれが好き勝手なことを言い、私を取り囲んで笑顔をみせた。何と……何という平 和な光景だろうか。陛下がいて、キューエルもいて、ロイドや咲世子、アーニャ、枢木な ど、かつては憎み合った者同士が仲良く微笑みあっている。私が望んでいたのはこういう 生活なのだ。 「ふっ……ようやく笑ったな、ジェレミア」  キューエルが言った。私は「えっ」と自分の頬に手を当てるが、成程、にやけている。 陛下たちも口々に「やっとか」「やっぱり可愛いですね」などと言ってくれたが、ヴィレッ タだけはテープで口を塞がれているためモゴモゴしていた。……誰か、彼女を解放してや ってくれ。 「さて、それじゃ休戦協定といくか。異論はないな?」  陛下が皆を見回した。もちろん、それに異を唱える者などいない。私もこれでようやく 皆が仲良くしてくれるのだと思えばこそ、笑みを深くしたのだが。  次の瞬間、陛下の放った一言を聞いて、私は凍りついた。 「では、一人一日ずつジェレミアを独占するということで。いいか?」  異議ナーシ。  全員が声を揃えて合唱する。  ……ん?  私は納得しかけて、やはりその違和感を拭えずに疑問符を張り付けた顔を陛下に向けた。 「あの……一人一日ずつ、というのは、いったい……」  すると陛下は事もなげに言った。 「みんなで寄ってたかってジェレミアを独占しようとするから争いが起きるんだ。シフト 制にすれば、問題ない」  ……はあ!? 「さすがだよ、ルルーシュ。見事な裁きだ」 「うむ、苦しゅうない。もっと褒めろ」 「皇帝を名乗るのは気に食わないが、その手腕は認めよう。さすがはジェレミアが一時期 とはいえ仕えただけのことはある」 「負け惜しみですかぁ? キューエル卿」 「黙れロイド」 「でも、確かにシフト制にすれば円満に解決する……さすが、薔薇を持ってポーズ取って ただけのことはある」 「アーニャ……あの写真、デリートしてくれないか」 「ルルーシュ様の黒歴史ですね」 「むごむごご」  あっはっはっは、と、アットホームな空気が流れる中、私は一人茫然とその場に佇んだ。 けれど七人は私のことなど構わずに、私のなぜか家へと歩いていく。まずは誰が一番最初 に私を独り占めするか、話し合いながら。そして取り残された私はといえば、事の成り行 きを未だに飲み込めないまま、ぐっと天を仰いだ。  そして今私は、件の七人とめくるめく日替わり同居生活を満喫(?)している。  ……どうしてこうなった? 誰か、教えてくれ(泣)                                        終