多面的視点から見るある人物についての現実と感情
先導アイチの場合
先導アイチには一つ上の従姉妹がいる。
名をという、父方の従姉である。
盆や正月に会うくらいの他の親戚とは違い、
何かと先導兄妹に気を掛けるこの従姉には普段おどおどとしているアイチも普通に話せていた。
「変わったわね、アイチ」
普段はおどおどとして小動物みたいに可愛いと言われるアイチだが
最近は何かきっかけがあったのか『かいくん』の話を会う度にしてくる。
「あ…ご、ごめん……つまらない、よね…?」
「あら、そんなこと無いわよ」
例え『かいくん』の話ばかりしていても何かと自信を無くし易いこの従弟にとって良い兆しなのだから咎めることもない。
そう伝えるとふわりと花が咲くような可愛らしい笑顔を浮かべてアイチは更に『かいくん』の話をする。
そんなに楽しそうに話すのだから興味を持ってしまうのは致し方ないことで……
「私も会ってみたいわね、その『かいくん』とやらに」
「ほ、本当!?じゃあこれからカードキャピタルに行こうよ!!」
「ふふっ…善は急げと言うものね。いいわ、行きましょう」
アイチの提案に是と返すと、の腕を引いて連れて行こうとする。
その様子はまるで実の姉弟であった。
櫂トシキの場合
櫂トシキには疎遠になってしまった友達がいた。
その友達はまだフーファイターが現在みたいに巨大な組織ではなく、
櫂・レン・テツしか居なかった頃に櫂が知る最後にフーファイターに入ってきた友達だった。
その人物は櫂やレンと同い年だけれども通う学校が違い、
会ってファイト出来るのは週末くらいだったがそれでも打ち解けるのには時間が掛からなかった。
たまに時間が出来たからと、制服のまま会いに来た時は櫂は妙にドキドキしていた。
今思えばあれが初恋というものだったかもしれないと後に櫂は一人ごちる。
しかしレンが力に目覚め、櫂と袂を分かつと共に連絡も取らなくなってしまった。
様々な『たられば』が櫂の脳裏に浮かぶが意味もないというのを櫂は理解していた。
だが……出来れば再び彼女とファイトしあえる日々が欲しいと願った。
雀ヶ森レンの場合
雀ヶ森レンにはテツ・アサカ以外にも仲間がいる。
その人物はレン率いるAL4に在籍するも、公の場には滅多に姿を現さずまたフーファイターの本部にもそうそう現れなかった。
なのでAL4以外のメンバーには実しやかに囁かれる都市伝説の扱いになっている。
仮に姿を現してもフードを深く被り、口許も隠れるようにデザインされたポンチョのようなものを着て
中に着ている服もユニセックスなものが多く男女の区別もつかない。
そして話していてもその声はポンチョに仕込まれた変声機によって本来の声とは違うものになっているし、
また普段は他のAL4のメンバーを通じて話すので自らの口で語ることはまず無い。
そんな幽霊メンバーであるにも関わらずレンはその人物を邪険に扱うことは無かった。
何故ならその人物はレンやテツといったフーファイター創成期メンバーの一人であり、
テツには隠しているが実はPSYクオリアの能力者であったからだ。
本人はこの力に否定的だが櫂とは違いレンから離れることもなく、
またテツのようにレンの下につくこともなく対等に動く。
だからレンは本人の好きにさせている。
彼女はレンと居る時にレンの事だけを考えていればいいのだから。
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良きお姉さんであり、誰かの初恋の想い人であり、唯一の人の話の始まりのカケラ。